足元に転がっている男が何をしたのか私は知らない。
ただ今回のターゲットが彼だった、ただそれだけ。最後の最後まで自分が死ななければいけない理由を私に聞いてきたけど、知らないものは答えようがないし残念ながら興味もない。

車に乗って深く被っていたフードを脱ぐと、丁度掛かってきた電話を取る。



「オンニ、終わったよ。」


「お疲れ様。こっちも片付いたから、もう帰っていいわ。」



電話の向こうの彼女は、見た目こそ愛らしいが私なんかよりよっぽど血の通わない人だ。ふっくらした頬に不釣り合いな返り血を付けているその姿が見て取れて、恐ろしいなと身を竦めた。



家に入って、汚れたパーカーを脱衣所に投げる。このままシャワー浴びてしまいたいけど、愛しい姿を一目見たくて寝室に向かう。



「名前?」


『おかえり』



寝ていると思っていたその人はベッドに腰掛けて窓の外を見ていた。
月明かりだけが照らす室内で、その姿はまるで1枚の絵のようだ。



「眠れなかった?」


『ん、でももう大丈夫。ビョリ帰ってきたし。』


「可愛い」


『…付いてる。』



隣に座った私の頬を細い指がなぞる。
拭きれなかった血を取ってくれたけど、綺麗な彼女には似合わないそれに思わず顔を顰める。



『ふ、一緒にお風呂入ろう?』


「もう入ったんじゃないの?」


『入ったけど、これ』



赤く染まった指を見せて戯けたように笑った名前は可愛くて、艶かしい。
早く彼女を思いきり抱き締める為に、この血を洗い流そう。





これが永遠の時なら、どれだけ幸せだろう







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