『何度見ても痛々しいわ。』


「はは、そんな顔しないの。もう平気だって言ってるでしょ?」


『分かってるけど…』



帰ってきて部屋着に着替える私を見て眉を顰めた名前。

アジトのベッドの上で目が覚めた時、足を洗う事を決めた。
大怪我を負った直ぐ後にそいつが抜けたと知れ渡れば、チームの威厳に関わる。簡単には納得して貰えないだろうと思っていた。
だけど皆案外すんなりと私の申し出を受け入れてくれて、結局今はチームを抜ける事なく、そのまま残って情報屋として仕事をしている。
完全に足を洗った訳ではないけど、以前に比べたら怪我をしたり命を懸ける場面は格段に少ない。



『せっかく綺麗な身体なのに、勿体無い。』


「あら、傷跡がある私は嫌い?」


『そうじゃないもん。』


「はは、ごめんて。おいで。」



着替えて髪を結んで手を広げる。
途端に顔を綻ばせて飛び込んでくる確かな存在が愛しい。

あれから幾分か、名前はそれまでよりも感情を露わにしてくれるようになった。不安に思った時は抱き着く力が強くなるし、嬉しい時の笑顔も前より柔らかい。



「落ち着いたら旅行にでも行こうか」


『本当?』


「うん。何処が良い?」



そしてあれから、未来の話をするようにもなった。明日の事、来週の事、その先の事まで。
世界中には、まだ私も知らない綺麗な物が沢山溢れてる。名前とそれが見たい。色んな幸せを一緒に感じたい。



『じゃあ、今度の休みは本屋さんに行こうよ。』


「いいね、そうしよう。」



この命が続くのなんて幾許でも良いと思っていた。だけどこの愛しい存在は、私の唯一のこの世への未練になり得た。

神様に決められているであろうその日まで、私は絶対にこの手を離さない。





共に安らかな終焉を迎えられるまで、愛し合おう。



END.








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