体調も少し回復してきたので、彩香は神室町にある花屋へ向かった。
店の花が萎れてきていたのを思い出したからだ。


昼を少し過ぎた神室町は、煌びやかな夜とはまた違った雰囲気である。
昼休みであろう、OLやサラリーマンがこの時間帯多く見られた。


「こんにちは」

「あ、毎度。店用の花ですか?」

いつも利用している花屋の主人は、愛想のいい笑顔を彩香に向けた。

「ええ、何かお薦めありますか?」

「今日は、珍しい種類の薔薇が入りましたよ」

主人が指す場所に、沢山の大輪の薔薇が咲いていた。

「見事な薔薇ですね」

「でしょ?」

でも、ちょっとうちの店には派手かな…と苦笑いした時だった。

「あれ?ロンディネのオーナーさんじゃないですか?」

突然、後ろから声を掛けられる。
振り返ると、いつもみかじめ料の集金に訪れていた構成員の男だった。

「あら、こんにちは」

花とはだいぶ不釣り合いの男が目の前に現れ、会話の続きに困っていると、男は彩香のそばまで歩み寄る。

「いやね、明日親父が贔屓にしてる店の女の誕生日なんですわ」

「…ああ、それで」

「『適当に見繕っとけ』言われましてね…ただ、俺。花の種類とか分からなくて…」

その若い構成員は困り顔で、店内をキョロキョロ見渡す。
「変な花贈ったら親父にシバかれるんすよ」とバケツの中のチューリップに向かってブツブツ言っている。


ちょっと気の毒に思った彩香は先程の薔薇を指さす。

「この薔薇なんかどうですか?珍しい種類みたいですよ」

彼女が薦めた薔薇を見た男の顔がパッと明るくなる。

「あ、それ!!凄い綺麗じゃないですか!!それにしますっっ!!」

「…即決ですね」

「オーナーさんのおススメなら間違いありませんからっ!!」

店の主人に、「この薔薇全部使ってスタンド花にして、飾り方は任せるわ」と注文した後、ハッとして彩香を見た。

「オーナーさん、もしかしてこの薔薇買おうと思ってました?」

自分が買い占めてしまった薔薇を見て、青ざめる彼に首を振る。

「いいえ、うちの店に飾るにはちょっとゴージャスすぎるので」

「そうっすか、良かったぁ。オーナーさんのおかげで親父にシバかれずに済みます」

心底ほっとした様子の構成員に少し興味本位に訊いてみる。

「真島さんって、怒るとそんなに怖いんですか?」

「怖いってもんじゃないっすよ。下手やらかした奴は俺ら身内でもボッコボコに容赦なくヤる人ですから」

「そんな…」

「でも、俺らそんな親父に心底惚れ込んでるんすよ。『嶋野の狂犬』に憧れてうちに来た若衆も少なくないんす」

「そう言う俺もその中の一人っす」と白い歯を見せて笑う彼は、何だか誇らしげに見えた。

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