「オーナー、花が届きました」

「入口にバケツがあるからそこに入れといて」

「はい」

昨日注文していた花が、予定通りに届いたらしい。

そう言えば、昨日の薔薇のスタンドはもう例の店に届いたのだろうか?
あれだけの量の薔薇だ。さぞかしゴージャスなものになったに違いない。

想像して少し苦笑いする。

真島さんが、あんな立派な花を贈る女性はいったいどんな人なんだろう…。

そんな事を考えながら、店の入り口へと向かう。


「ま、真島さんっっ!?」

入口へ向かうと、そこには届けられた花をしゃがんでマジマジと見ている男が居た。

「おう、オーナーはん、この花どないしたん?」

「お店に飾るお花ですよ、昨日注文しておいたんです」

しゃがんだ態勢のまま、上目づかいで彩香を見る。

「なんや、自分で買うたんかいな。俺はてっきり何処ぞの男からのオーナーはんへのプレゼントか思たわ」

「色気が無いのう」と言いながら立ち上がる。

「色気が無いのは重々承知ですよ」

そう言って、彩香は花束の入ったバケツを持ち上げた。



「カサブランカっていうんですよ。私好きなんです」

「何や、花の事はよう分からんが、オーナーはんによう似合う綺麗な花やな」

店内に用意してあった花瓶に、花を生ける彩香を眺めながら真島が言う。


「…今日は、真島さん来られないのかと思ってました」

「ん?何でそう思ったん?」

「真島さんが贔屓にしているお店の女性の、今日は誕生日だとか…」

「……ッッな、そないな事どないして知ったん?」

「ふふっ、秘密です」

「教えてくれんのかい?何や、オーナーはんにはかなわんわぁ…」

「行ってあげた方がいいですよ」

「うーん、何か今日は乗り気せぇへんのや…花は贈ったし、えぇやん」


そんな会話をしていると、奥から瑠伽が顔を出す。

「あ、兄貴!!先日はご馳走様でした!!」

「瑠伽チャン。今日もおっとこ前やのう」

「またまたぁ兄貴には敵いませんよ。い、痛いですよ兄貴!!」

真島は片腕で瑠伽の首を羽交い絞めにすると、頭をグリグリ小突きはじめた。
こうして見ると、まるで歳の離れた兄弟のようで微笑ましい。

「お店、行かなくていいんですか?女の子待ってるんじゃないんですか?」

瑠伽とじゃれ合う真島はそんな彩香の言葉に、動きを止める。

「何でそないこだわんねん」

「何でって…」

少し悪戯っぽく笑う真島の意図はわからないまま彩香は続けた。

「いいですか?キャバクラの女の子にとって、誕生日は一大イベントなんですよ。お花の数も大事ですけど、その日どのくらいのお客様が来てくれるかで、その子の評価、モチベーションも変わるんです。真島さん、その子の事好きなんでしょう?だったら絶対行ってあげるべきです!!」

「………」

彩香の言葉を聞いて、真島から悪戯っぽい笑みが消えた。

「?…どうしました?」

「何や、そんな事かいな、俺はてっきり…いや……せやな、そろそろ開店時間やし、ちょっと顔出してみるわ」

ほな、と言い残し真島はスタスタと足早に店を出て行った。



「……何か、兄貴ちょっと怒ってませんでした?」

「そうね、私変な事言った?」

瑠伽と二人顔を見合わせていると

『ガチャッ』

いきなり、入口のドアが開いた。
驚いて見ると、出て行った筈の真島が半開きのドアの向こうから顔をのぞかせていた。

「!?」

「言ぅとくけどな、俺はあんな女好きとちゃうで。何回かホテル行っただけやっっ!!」

そう言うと、再びバタンと扉は閉められた。

「…やっぱ怒ってましたね」

再び、二人は顔を見合わせた。

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