「何を飲まれますか?」
「いつもの水割りで、オーナーさんは?」
「では、同じものを」
運ばれてきた水割りセットで、手際よく飲み物を作り乾杯をする。
「今日はあんたに折り入って話があって来たんですよ」
「…と言いますと?」
「率直に言うと、見合いの話です」
彩香は目を丸くして、小室を見た。
「え?見合い…ですか?」
小室は頷いて話を進める。
「いや、実は俺の息子なんだがね、IT系の会社の社長やってて、それがだいぶ軌道に乗ってるらしいんですわ」
「それは、素晴らしいですね」
「歳も31で、そろそろいい人見つけて欲しいと、俺も思ってましてね」
「はあ…」
「そんな時、この店でオーナーさん見てピンと来たんですよ。それで何度か指名させてもらった訳ですが…」
「………」
「器量もいいし、性格も文句無い。おまけにお店のオーナーを務める程の裁量もお持ちだ」
「あの…小室様…申し訳ありませんがそういうお話はちょっとお受けできません…」
言われて、小室は彩香の薬指に目をやる。
「失礼ですが、オーナーさんは今おいくつですか?」
「え?今年で29になりますけど…」
彩香の返事に、小室はウーンと小さく唸り。
「あんたに恋人がいるのは分かって言ってるんですよ」
彼は水割りを一口飲むと、「でもね」と続けた。
「あんた位の歳の女に贈るには、ちょっとその指輪は無いんじゃないかと思ってね」
「あ…これは…」
「言っちゃ悪いが、そんな安っぽい指輪をくれるような男なんてたかが知れてるでしょ、うちの息子の方がオーナーさんに相応しいと思うんだが」
指輪を右手で隠すようにキュっと握ると、彩香は表情を見られないように俯いた。
事情を知らないにしても、こんな所で死んでしまった恋人を侮辱されるとは思っていなかった。
「一度会ってみてはくれないだろうか?」
「…………」
「お断りや」
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