ふいに頭上から聞こえてきた、聞き覚えのある声。
顔を見なくても彩香にはその声の主が分かった。

「ITの社長だか何か知らんけどな、彩香にはちゃーんと俺という男がおんねん。せやから諦めぇ」

ドスの効いた声でそう言うと、声の主は「行くで」と彩香の腕を掴み、強引に事務室の方へ引っ張って行った。




事務室のドアを閉めた時、彩香は初めて彼の顔を見た。



「真島さん…」

「大丈夫か自分、泣きそうな顔しとったで?」

心配そうに、彩香の顔を覗き込む真島に、切ないような懐かしいような、自分でも説明出来ない感情が溢れて来るのを感じた。
思わず真島の胸に抱き付きたい衝動を抑えて、彩香は小さく「大丈夫です」と応える。

「すまんっっ!!」

パンッッと両手を合わせ、頭を下げて真島は謝罪をしてきた。

「ワシ、オーナーはんの恋人ヅラしてしもうたわ」

「え…?」

「何や、会話聞いてて胸糞悪なってしもてのぅ、つい勢いっちゅうか…堪忍してや」

情けない顔で、彩香の顔を覗き込む彼の姿が、なんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。

「プッ…ククッ、私の事、呼び捨てにしてましたしね」

お腹を押さえて、笑いを堪える。

「ホ、ホンマか?それは気付かんかったわ…」

「真島さん」

「………ん?」

「グットタイッミングでした」

彩香に笑顔でそう言われると、「お、おぅ…」と真島は照れたように自分の鷲鼻をかき

「ほんなら、良かったわ」

と呟いた。



「オーナー、入っていいですか?」

「どうぞ」

彩香の言葉に、ドアを開け瑠伽が顔をのぞかせる。

「小室様、どう致しましょう。」

「謝罪して帰って頂いて。お代はいいから」

「わかりました…あの…大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。有り難う」

それを聞いて、瑠伽はホッとした笑顔を見せて扉を閉めた。

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