「ほんなら、オーナーはん」
もう帰るのかと、真島の方を見た彩香に
「今から、店抜けられるか?」
「は?」
「二人で飲み行こうや」
突然の提案に彩香は困惑する。
「え?今からですか?」
「せや。後は下のモンに任せればえぇやん。嫌な事おうた時は、酒飲むんが一番やで」
「で、でも…」
「な?そうしよ?」
強く断れない彩香に、真島はそれをYesと捉えたのか。
「決まりやな」
と、ニヤリと笑った。
彩香の手を強引に引いて歩く真島の背中を見つめながら脳裏に浮かぶのは、深く関わるなと言っていた秋山の顔。
(すいません、秋山さん…)
彩香は心の中で謝罪した。
真島が彩香を連れて来たのは、『ニューセレナ』という店だった。
「ここ、落ち着いて飲めるんや」そう言って入ろうとした真島は、ふと動きを止めて彩香を見る。
「今日こそワシの奢りやで、この前みたいに自分の分払うんは無しや」
強く念を押すと、ドアを開けた。
カランカランと、来客を知らせるベルの音。
「あら、真島さん。いらっしゃい」
ここのママであろう女性の言葉に、カウンターで背中を向けて飲んでいた客がこちらを見る。
その人は、あろう事か今一番会いたくない人物だった。
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