秋山に店まで送られた彩香は、店の事務室のソファーに座り物思いにふけっていた。

小室から真島に助けてもらったあの時、事務室で突然湧いてきた真島に対するあの感情。

あれは、何だったのだろう。

辛い思いをしている時にその場から助けられ、気持ちが緩んでしまったからなのか。

もしも、あれが真島ではない違う人に助けられたとしたら…自分はその人に対しても同じ気持ちになるんだろうか……。

頭のなかで、真島以外の人間でシミュレーションしてみるものの、あの出来事が強烈すぎたのか、なかなか上手くいかない。




もしかしたら…





自分は、真島の事が好きなのではないだろうか?




思った瞬間、彩香の鼓動が『ドクン』と脈打つ。



「………っ!?」



ああ…これは、間違いない。自分はいつの間にかあの狂犬に惹かれていたのだ。

気付いてしまった自分の感情に困惑しながら、左手の指輪を見つめた。






「瑠伽君さあ…」

「はい」

「真島さんが気に入ってるお店に行ったことあるんだよね?」

閉店後、男子従業員と店の閉め作業をする時間。
瑠伽が洗ったグラスをクロスで拭きながら、おもむろに聞いてみた。

「ああ、『セイレーン』ですか?一度だけですが」

「じゃあ、真島さんが指名している子も見た事あるのよね?」

「ええ、マリアさんっていって、すっげー可愛い子でしたよ」

「そ…そうなんだ」

思わずグラスを拭く手に力が入る。

「なーんか二人ずっと密着してて、キスも何度もしてました。目のやり場に困っちゃって」

「キッ、キス!?」

聞かなきゃよかったと後悔しながら、「あとは宜しく」と言ってオーナー室に引っ込もうとした時だった。


「あ、オーナー」

着替えを済ませた女の子が、彩香の元にかけ寄る。

「ジュリちゃん。お疲れ様」

先日、真島に連れていかれた迷惑客についていた子だ。

「オーナー、今日うちらとホストクラブ行きません?」

「え?…私、そういう所はちょっと…」

「それが…」

と言って、急に小声になる。

「レイナがちょっと質の悪いホストに入れ込んじゃってて…」

「質の悪い…?」

「枕営業ガンガンする人で、しかも中で出しちゃうらしいんですよ。レイナもベタ惚れだから彼の言いなりで…一回オーナーにその人見てもらって、レイナを説得してもらいたいなぁって……」

彩香は軽く頭痛がして頭を押さえた。

「オーナーの言う事なら、聞くと思うんですよ」

お願いします、と頭を下げられる。

彩香は溜め息をついて、「わかった」と頷いた。

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