初めて訪れるその店は、入口から黒を基調にした高級感漂う造りになっていて、一人ではとても入れない雰囲気だった。
彩香は壁に貼られたホストの写真に圧倒されながら、店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
いかにもホストらしいスーツを身に纏った男たちが三人を迎え入れる。
「ジュリちゃーん。来てくれたんだ」
彼女指名のホストだろうか、ジュリの手を取りL字のシートへと案内してくれた。
「いつものセットでいいかな?」
二人が指名するホストは、彼女たちの隣に座った。
ジュリ指名のホストが、彩香に
「今日は、お友達も連れて来たの?」
「そうそう、うちの店のオーナーなの」
それを聞いて二人のホストは「え?」と驚いた。
「こんな若くて綺麗な人がオーナーとか、羨ましいんだけど」
「でっしょー、うちらオーナーにはホント助けられてんのよねー」
レイナは、ホストに腕を絡ませながら、上機嫌で言った。
ジュリ指名のホストは「翼」、レイナの方は「大輝」というらしい。
「今、もう一人来ますから、少々お待ちください」
そう言うと翼は、六人分のグラスに酒を注ぐ。
「お待たせしました」
黒いスーツの男が彩香の足元に跪き、名刺を差し出して来た。
「『鮎川 咲弥』です。今日はご来店有り難うございます」
そういうと、彩香の隣に静かに座る。
彩香は渡された名刺をマジマジと見て
「何だかカッコいい彩香ですね」
と、彼の顔を見た。
「ありがとうございます」
と笑うその男の顔に、彩香は息を呑んだ。
今は亡き恋人とそっくりの男が目の前に座っている。
じっと自分の顔を見つめる彼女に、咲弥は「どうしました?」と問いかける。
それを見ていたレイナが
「あ、オーナー。もしかして咲ちゃんに一目惚れ?」
ヒューヒューと茶化す彼女らに、
彩香はハッっと我にかえる。
「ご、ごめんなさい。ちょっと知り合いに似ていたもので…びっくりして…」
「そうなんですか?貴女のような知り合いがいるなんて、羨ましいなあ。お彩香訊いてもいいですか?」
「あ、ごめんなさい苗字彩香です」
「彩香さん、こういう所はよく来られるんですか?」
「いいえ、初めてです」
すると、咲弥は「そっか」と頷き
「じゃあ今日は頑張って楽しませないと」
そう言って優しく笑った。
「………」
笑うとますます似ている。
彩香は胸が苦しくなるのを覚えた。
「その指輪…彩香さん彼氏がいるの?」
「あ…」
先日の小室とのやり取りを思いだし、無意識に指輪を隠す。
そんな、彩香を見て、「かわいい指輪ですね」と彩香の左手を優しく取り
「俺の彼女だったら、こういう可愛らしい指輪が似合う人がいい」
そう言って、自分の膝に置いた。
ああ、何だ。やっぱり違う。
彩香は苦笑いを浮かべる。
彼はこんなにスマートに女性は扱えない。
胸のつかえがスッと取れた気がして、グラスの酒をグイッっと飲み干す。
横を見ると、大輝の肩に頭を預け甘えるレイナの姿があった。
(当初の目的を忘れる所だった…)
ジュリと目が合い、無言でコクリと頷いた。
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