当日、待ち合わせ時間より15分早く劇場前広場に向かうと、すでに咲弥が先に来ていた。

「すいません。お待たせしました!!」

「いや、俺も今来たところです。じゃあ行きますか?」

そう言って、咲弥は自分の腕を差し出す。

「デートは腕を組んで歩くものですよ」

「で…でも、あの…」

ほら、と咲弥に促され、渋々腕をからめて歩き出した。



「ここです」

咲弥が連れて来たところは、教会をイメージしたレストランだった。

「創作料理のお店なんです。」

「素敵なお店ですね」

パイプオルガンの上の見事なステンドグラスを見ながら溜め息をつく彩香に咲弥は頷くと

「雰囲気だけじゃなく、料理も美味いですよ」

そう言ってほほ笑む。


さすがホスト。女性のツボをよく心得ているなと思った。





「ごちそう様でした」

店を出て彩香は咲弥に礼を言う。

「でも、ほんとにいいんですか?私の方が奢らなきゃいけない立場なのに…」

「女性に財布を出させる訳にはいきませんから。彩香さんこの後まだ時間あります?」

咲弥はそう言うと、高級そうな腕時計を確認する。

時間は7時を少し過ぎたところだった。

「ええ、大丈夫です」

「じゃあ、静かなところで飲みなおしましょう」

そう言うと咲弥はまた自分の腕を差し出した。



ホテル街の近くにその店はあった。

小さいながら、落ち着いた雰囲気のバーだった。

そこのカウンターに腰を掛ける。


「何になさいましょう?」

マスターがメニューを差し出す。
彩香が何を頼むか悩んでいると

「ここのマティーニ美味しいですよ」

隣に座る咲弥に薦められる。そう言われたら、頼むしかない。



「マティーニを飲むと、そのバーテンダーの力量が分かると言われているんですよ。ね、マスター?」


ミキシンググラスに材料を入れ、ステア中のマスターに咲弥が話しかける。


「そうですね、材料も作り方もシンプルなので逆に難しいカクテルですね」

「へぇー」と感心する彩香の前に、静かに差し出されたのは、金属の爪楊枝大の棒が刺してあるオリーブが入っており、ほぼ無色透明の飲み物だった。



「頂きます」

そう言って一口飲んでみる。

ジンの少し痺れるような風味が口の中に広がった。

「美味しいです。でも、ちょっとアルコール強いですね」

「ははっ、ショートグラスのカクテルはだいたい強いからね。次は弱めのお酒にしよっか」

そう言って、咲弥はマスターに目配せをする。
咲弥の合図に、マスターはコクリと頷いた。



「どうぞ」

出されたのは、細身の背の高いコリンズグラスに入ったオレンジ色のカクテルだった。

「当店オリジナルのカクテルです」

「オレンジピールを使ってるから、少し苦みを感じるけど、スッキリしていて美味しいカクテルだよ」

と咲弥が説明をしてくれた。


「そういえば、前に俺が知り合いに似てるって言ってたよね?」

少しほろ酔い加減の彩香は、「はい」と頷きカクテルを口にする。

「それって、彩香さんとどういう関係なの?」

少しの沈黙の後、オレンジ色のカクテルを見つめながら

「私の恋人です。2年前に交通事故で亡くなりました…」

「……そうなんだ…。そうとは知らず…ごめん。じゃあ俺の事見て驚いたでしょう」

「ええ、まあ最初は本人が生き返ったのかと思ったくらいです」


「……彩香さん」

笑顔だった咲弥が急に真面目な顔になる。

「俺と真剣に付き合ってみない?」

「へ?」

咲弥の突然の申し出に彩香は唖然とする。

「ほ…本気で言ってるんですか?」

「勿論」



困惑する彩香の視界が、急にグラリと揺れる。

「!?」

椅子から落ちそうになるのを、咲弥は支え

「大丈夫?飲み過ぎたのかな?」

「………」

急な眠気が彩香を襲う。
おかしい。そんなに飲んではいない筈なのに……。


「出ようか?」

彩香の身体を支えながら、咲弥はマスターを見る。

彼は咲弥の視線に気づき、ニヤリと笑った。

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