「……ん…ぅ?」

彩香は薄く目を開けた。

見慣れぬ室内に、徐々に意識が覚醒していく。

急に首元の重さに気づき、それが視界に入る腕のせいだとわかる。

彩香の背中に冷たいものが走った。

目の前のそれは、どう見ても男のものだったからだ。

後ろに誰かいる……。


完全に目の覚めた彩香は、部屋の造りから、今自分がホテルの一室にいるんだと確信する。


昨日、咲弥とバーに行ったところまでは覚えている。


では、その後は…?

記憶を辿るが全く思い出せない。

でもそうだとすると、この腕の主は……。


自分の置かれた状況に、血の気が引いていくのがわかった。


そっと腕をどかすと、恐る恐る後ろを見る。



「え?真島さん!?」

想像とは、全く違う人物に、彩香は酷く混乱した。

「あ……」

胸元は少し開いているものの、服はしっかり着ている事に気付く。

少しほっとして真島を見ると、彼は上半身裸で、寝息をたてていた。


「真島さん。起きて下さい!!真島さんっっ!!」

「んーー…」

少し眉間を寄せた後、彼はゆっくりと目を開けた。


「……おぅ、おはようさん」

まだ眠そうな目をしながら、横になった態勢のままほおづえをつき欠伸をした。

「昨日の夜はオーナーはん、ごっつ激しかったでぇ」

ヒヒッと笑う真島を睨む。

「そんな嘘は信じません!!」

「なーんや…つまらんのぅ」

「そんな事より、一体どういう事ですかこの状況は、私途中から記憶が無いんですけど」

よっこいせっと真島は上体をおこし、あぐらをかく。


「ああ、それなんやけどな、昨日あのホストと一緒にいたやろ?」

「ええ、バーに行ったとこまでは覚えているんですけど…」

「たぶんそこで一服盛られたんやろ。意識の無いあんたをそいつがこのホテル連れて来たんや」

「え?」

彩香は昨日のバーでの出来事を思い出す。

そういえば、出されたカクテルは妙に苦かった。

「ワシが来なかったら、あんたあのままあの男に犯られとったで?」


「………」

彩香は無言でベッドの端に腰を掛けた。

「あの男とはもう会わん方がえぇ、ま、二度とオーナーはんの前には姿現さんと思うけどな」

真島も彩香の隣に座り、煙草に火をつけた。


少しの沈黙の後、彩香は小さく呟いた。

「ありがとうございました…」

「……まぁったく、あんまり心配させんといてな」

落ち込む様子の彩香に、真島はわざと明るい口調で言った。



煙草を灰皿に押し付けると、彩香の視線を背中に感じそちらを向く。

「背中…触ってみていいですか?」

彼女にとって珍しい物なのだろう。

「おう、ええで」

触りやすいように、背中を向けてくれた。
背中の般若は無言で彩香を睨みつけている。それを肩甲骨の辺りから下に向かって指でなぞった。

「怖いか?」

「いいえ、真島さんなら怖くないです」

「そうか、ちょっ、止めてぇなぁ。くすぐったいわ」

「あ、ごめんなさい…」

真島の反応に、彩香はパッと手を放し、照れ隠しに自分の首元をかいた。

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