いつものように賑わいをみせる、大衆居酒屋。
真島はひとりカウンターで飲んでいた。
以前、彩香と瑠伽を連れて来た場所だ。
スジの煮込みを一口食べると、この前は頼まなかった事を思い出す。
ここは煮込みも美味いのだ。
今度また連れてきて食べさせてやろうと思っていると、ついたてを挟んだ後ろの四人席に客が座る気配がした。
「そう言えば咲弥さん、ロンディネのオーナーどうなりました?」
真島の箸がピタリと止まる。
「それがさ、途中でとんだ邪魔が入っちゃってさ」
「何かあったんですか?」
咲弥は少し興奮気味に言う。
「ホテル行ったまでは良かったんだよ、そしたらさ、そこに誰が来たと思う?」
「誰ですか?」
「嶋野の狂犬だよ。……確か真島何とかっていったかな。鉄製のドア蹴破りやがった。化けもんだよありゃ」
一瞬、会話が途絶える。
「……え?それってマズくないですか?」
「あのオーナー、ヤクザの愛人だったんですかね」
「さあな、取りあえず俺は暫く神室町出るわ」
真島はその会話を微動だにせずに聞いていた。
(この街から出れば逃げられるとでも思ぅとんのかい。俺も舐められたもんやのう…)
「あの女さあ、全然なびかないから、取りあえずヤッちまおうと思ってたんだけど」
「女って、一回寝ればすぐ彼女ヅラするもんですからね」
「そそ、ベッドの上でちょっとマジっぽく告れば、だいたい引っかかるよな」
それを聞いていた後輩らしき男が、興味津々に訊く。
「へえ、それで駄目な時はどうするんですか?」
「そりゃお前、ヤってる最中の画像や動画撮っときゃ、色々使えんだろ」
「ただし、下手すりゃ警察沙汰だから、慎重にな」
釈然としない様子で咲弥が言った。
「しっかし、今回は結構金引っ張れると思ったんだけどなあ」
「キャバクラのオーナーですからね」
「結局、金の使い損だったよ」
それを聞いた一人が。
「咲弥さん、あそこの店のキャバ嬢引き抜きませんか?」
「……引き抜く?」
「俺の知り合いキャバの店長なんすよ。あそこの女、結構うちの店遊びに来ますし、その子ら引き抜いてその知り合いの店に紹介すれば、店からも報酬もらえますよ」
「おう、悪くないな」
「口止めしときゃ、俺らの仕業だって気付かねーもんな」
「あのオーナーの困った顔、見ものだな」
ゲラゲラ笑う声を背に、真島は無言で立ち上がる。
「なーんや、随分おもろそうな話しとるのう」
ついたての上に両腕を組むようにして寄りかかり、上から覗くと三人の男が驚いてこちらを向く。
「俺も混ぜてくれんやろか」
「あ、…あんたは…」
咲弥の顔が青ざめた。
「ぜぇーんぶ聞ぃとったで。俺のシマの店荒らすとかええ度胸しとるのう」
薄ら笑いを浮かべていた顔がスッと真顔になる。
「ちぃっとそこまで顔かせや」
真島は低く凄味のきいた声で言った。
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