劇場前通りを歩いていると、前方を歩いてる人達が左右にサーッと引いて行くのが見えた。

「?」

何事かと見ていると、割れた人ごみの間をゆっくりこちらに歩いて来る人物がいる。


真島吾朗だった。


彩香は思わず口元を押さえる。

というのも、真島のジャケットには所々血痕が付着していたからだ。

その無表情の顔からは感情が読みとれず、そのせいか血色が悪くみえる。


群衆のつくりだす花道を歩いて来るその様は、まるで映画のワンシーンのようだ。


やがて、前方にいる彩香に気付き。


「おぅ、オーナーはんやないか」

いつものように、目を細めて表情を緩める。


「ま、真島さん!?どうしたんですか?血がっっ!!」

彩香は彼の頬にも血が付いている事に気づき、無意識に手を添えようとした。


「あかん、触んな」

真島はその手をスッと避けて、彩香の手を払う。

「あんたの手、汚れてまうやないか」

「でも…」

「心配すんなや、返り血や」

「………」


それでも心配そうに無言で見つめる彩香に、真島は悪戯っぽく笑い

「何や、その顔。この間の続きでもしとぅなったんか?」

そう言って、自分の首筋を指でチョンチョンと指した。

「なななっ、何言い出すんですかっっ!?そんな事あるわけ無いじゃないですか!!!」

自分がつけた痕を手のひらで隠すようにしながら、真っ赤になって怒る彩香を見て、真島はヒヒッと笑った。

「そんな事言うて、いっぺん寝たらワシの事忘れられんようなるかもしれへんで?」

「………」

もうすでに彩香の中で、自分がそういう存在になっている事を知ってか知らずか真島は続けた。


「ワシなあ、血ぃ見ると体が疼いてしょうが無くなんねん」

どや、試してみんか?と彩香の顔を覗き込む。

「……相手が誰でもいいんなら他の人に頼んではいかがですか?」

「何や、あん時はあない可愛い反応してくれたっちゅうのにつれないのぅ」

「あ、あれはっっ!!し、仕方ないじゃないですか!!あんな事されたら誰だって…」

そこで彩香はハッとする。

「真島さんこの間は、私はそういう対象じゃないって言ってませんでした?」

「言うたかいのぅ?覚えとらんわ」


「………」

惚ける真島の顔を見て、困惑と同時に何故か怒りもこみ上げてきた。
この男は一体何を考えているのだろうか?



彩香は、言葉も出ない様子で無言で真島を睨みつけている。

これ以上何か言うと、嫌われてしまうかもしれないと思った真島は、軽いため息をついた後、微かに笑い。


「冗談や。オーナーはんからかうとおもろいのぅ」



「…………いいですよ…」

「あん?」

「私と一度、寝てみます?」

彩香の言葉に、真島は目を見開いた。

「ほ、ホンマかいな!?」

「真島さんの事忘れられなくしてくれるんですよね?」

挑戦的な目で真島を見つめる彩香に、ゴクリと唾を飲みこむ。


「ホンマに俺と寝てくれるんかいの?」


彩香は暫く無言で見つめていたが

「冗談ですよ」

と真顔で言った。


「真島さん」


呆気にとられている真島は、言葉も出ないまま彩香を見た。

「言っていい冗談と悪い冗談があるんですよ」

「覚えておいて下さい」と言い、そのまま天下一通りへと歩いて行った。



その後ろ姿を見送りながら

「何や、冗談かいな。心臓飛び出るか思うたわ」

はあ…とため息をつく。


「ホンマあの人には敵わんわ…」

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