カランカランという音と一緒に、彩香は店内に入る。
先にカウンターで待っていた秋山が軽く手を挙げた。
「急に呼び出してすまなかったね」
秋山の隣に腰掛け、ビールを注文する。
「どうしたんですか?」
呼び出された理由を訊くと、秋山は「実は…」と言いかけ、ふと彩香の首の辺りを凝視した。
「彩香さん、首のところのそれ…」
「え?」
「……キスマーク…だよね?」
言われてハッと手で覆う。
ファンデーションで、だいぶ目立たなくしたと思っていたが、目ざとい男だ。
「それって、もしかして…真島さん?」
言い当てられ、彩香はとっさに否定する。
「ち、違いますよ。これはその…」
動揺ぶりから、それが嘘だと分かる。
「彩香さん…まさか、あの人と寝たの?」
「なっ…そんな事してません!!これはその…ちょっと色々ありまして…」
「色々…ね…」
秋山は、煙草に火をつけ煙を吐いた後少し間を置いてから、彩香に訊いた。
「前は否定してたけど彩香さん、本当のところあの男に惚れてるんじゃないの?」
「え?……いや、それは…」
彩香の様子を見て、秋山は力無く笑う。
「ふっ、本当に君は嘘をつけない人だね」
言った後でため息をつく。
「そっか…まいったねこりゃ…」
「……すいません」
「…いや、いいんだ。惚れちまったもんは仕方無いよね、うん」
秋山はそう言うと、何か深刻な顔で暫く自分の煙草の煙を見ていた。
「秋山さん?」
「実はね、ちょっとしたつてで得た情報なんだけど、今神室町に武器の密売グループが水面下で動いてるらしいんだよね」
彩香は眉を顰める。
「密売グループ…ですか…」
「その事で今、東城会が動いてるらしい。この神室町を仕切ってるのは君もよく知ってる東城会だ。良くも悪くも、神室町の治安を守ってるのも彼らと言っても過言ではないね」
「はい、私のお店が問題なく経営できているのもそのお陰です。お金は払ってますけどね」
フフッと笑う。
「そんな中で、どこの馬の骨とも分からない奴らが、武器の密売をしているとなると、東城会の面子に関わってくるんだよ」
「その、密売グループの足は掴めてるんですか?」
「そこまでは分からない。ま、あんな巨大組織相手じゃ時間の問題だろうけどね」
秋山は煙草をもみ消し、少し困ったような顔で言った。
「その捜索の指揮を執っているのが真島組らしいんだ。だから、変なとばっちり喰らわないよう、あの人に会うのは少しの間控えた方がいいって忠告しようと思って呼び出したんだけどね」
「……」
「そっか、惚れちまったか…」
ほんと、まいったなと秋山は呟いた。
自分を心配してくれる秋山に申し訳なく思いながら、彩香はグラスの酒を飲んだ。
今日のビールはいつもより苦く感じられる。
「真島さんに、自分の気持ちは伝えたの?」
カウンターに頬杖をつきながら秋山は訊いてきた。
「……まだです。伝える気もないです」
「どうして?」
「………」
遊ばれて終わりそうだからとは言いづらくて、彩香は無言になる。
そんな彼女に秋山は何かを察したのか
「まあ、君には君の考えがあるんだろうね。うん、でもまあ、それならその方がいい」
そう言って笑った。
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