「オーナーはん…?」
受話器の向こうから聞きたくて仕方なっかた彼の声がする。
「お…お久しぶりです…」
「今、何処におるん?」
彼の声は、気のせいか酷く落ち込んでるように聞こえる。
「お店ですけど…。元気無いですね、どうかしました?」
「俺の事務所な、ミレニアムタワーの57階なんやけど、今から来て貰えんやろか?」
「え?じ、事務所にですか?」
思いがけない真島の台詞に、少し狼狽える。
ヤクザの事務所なんて、出入りした事も無いし、自分とは無縁の場所だと思っていたからだ。
「あかんやろか?」
しかし、それ以上に真島の様子が気になった。
「……ミレニアムタワー57階ですね?分かりました」
「すまんな」
電話を切った後、急いでミレニアムタワーへと向かう事にした。
「………」
ビルの一角にある狭いオフィスのような空間…。
事務所というとそんな所を想像していた彩香は呆気にとられた。
エレベーターから降りたそこは、広い廊下のようになっており、その両壁を「真島組」と書かれた大きな提灯のようなものがずらっと並べられている。
この時点で、事務所と呼べる規模の広さではないという事が分かる。
東城会でもトップの組織と言っていた秋山の言葉を思い出した。
真島吾朗という人は、この真島組という巨大な組織を束ねている人なのだ。
とんでもない人を好きになってしまったのだと、今更ながら思った。
向こうに見えるのは入口だろうか…。
とてもじゃないが、入りづらい。
入口まで来たものの、どうしようかと独り佇み途方に暮れていると、ガチャリとドアが開いて中から男が出てきた。
「何だあんた」
威嚇するような男の視線。怖いと思ったが、ここまで来たからには引き返す訳にもいかない。
冷や汗をかきながら彩香は尋ねた。
「あ、あの…真島さんに呼ばれて来たんですけど…ま、真島さんは…」
言うと、ああ、と男は頷き。
「お話は伺っております。親父は中です、どうぞ姐さん」
「ね…姐さん…?」
もう、どうしていいか分からず、促されるままに付いて行く事にした。
「おう、早かったのう」
組長室に案内され、中に入ると、真島は黒革のソファーに座り、独りウイスキーを飲んでいた。
「おんなじもんでええか?」
と氷も入っていないグラスに酒を注ぐ。
「ここ座り」
ポンポンと自分の隣のスペースを叩くので、素直に座ることにする。
「どうしたんですか?」
「ン?何や無性にあんたの顔が見とぅなってのう」
真島は笑うが、その笑顔にいつもの覇気が感じられない。
「何かあったんですね?」
真島の顔をじっと見る彩香に、真島はグイッとウイスキーを煽ると、ジャケットからライターを取り出した。
その特徴的なデザインには見覚えがある。
先日、吉岡が真島用だと見せてくれた、蛇皮のライターだった。
「あいつの形見や」
「え?…吉岡さん、どうしたんですか?」
一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった。
index
top