朝霧涼平。
それが兄の彩香だ。
両親の離婚と同時に、彩香は母方の姓になったので、兄とは苗字が違うが、実の兄だ。
優しい兄だった事は、幼かった記憶に微かに残っている。
母の葬儀の時に、久しぶりに会った時も悲しみに暮れる彩香を慰めてくれた。
大好きな、かけがえのない家族だ。
そんな兄が、人を殺した。
よりによって、自分が好意を寄せている男の部下を。
いい人だったのに…。
彩香はライターを見せて人の良さそうに笑う吉岡の顔を思い浮かべていた。
この事を知ったら、真島はどう思うだろうか。
やはり兄を殺そうとするのだろうか?
『そいつの親兄弟みんな殺したる』
あの時の彼の台詞を思い出す。
私の事も殺したいと思うのだろうか……。
数日後、真島は賽の河原に来ていた。
神室町の情報屋「サイの花屋」に呼び出されたからだ。
「何か分かったんか?」
「今回はちょっとばかり高くつくぜ」
花屋の言葉に、真島は苛立ちを隠さずに言う。
「そんなもん、いくらでも払うたるわ。早よ教えんかい」
そんな彼に花屋はフンッと鼻で笑うと、フロアの至る所にあるモニターの一つに、一人の無精髭の男を映し出した。
「朝霧涼平。あんたが追ってる密輸グループのナンバー2だ」
「一人の男探すのに、えろう時間かかったのう」
「それがな、どうもこのグループの背後にロシアのマフィアが関わっているらしい。『タークチカ』って彩香の東城会とタメ張るぐらいのでかい組織でな。麻薬、売春、人身売買、暗殺。何でもござれな連中だ。バックにマフィアが居るんじゃ、こっちも大ぴらに動けなくてな」
「ほう…、で?この男、何処におんねん」
マフィアの話には興味が無いらしく、朝霧の居所を訊く。
「フッまあ、慌てなさんな。あんたにちょっと見てもらいたいモンがあってな」
そう言うと花屋は、もう一つの別のモニターに映像を映し出した。
「これはつい最近のやつだ。あんた、この女に見覚えあるだろう?」
そこには、朝霧と一人の女が映っていた。
「……これは…。どういう事やねん!?」
一緒に写っていったのは彩香だった。何か深刻な話をしている様子だ。
「何でこの人がこいつと一緒におんねや!!」
「苗字彩香……朝霧とは苗字は違うが、実の妹だ」
「―――っ!!何やてっ!?」
真島は愕然とモニターの中の二人の様子を見ている。
「んなアホな話…あるかいな…」
真島は酷く困惑した表情を浮かべていた。
賽の河原を後にした真島は無言で公園前通りを歩いていた。
彩香はこの事を知っているのだろうか?
朝霧に会っているという事はその可能性は高い。
立ち止まり、煙草に火をつけ空に向かって煙を吐き、どうしたものかと思案に暮れる。
が、こんな所で考えていてもいい案は浮かんではこない。
「ドラマでもあるまいし、こんな展開あるかいな……どないせぇっちゅうねん…」
もし、彩香がこの事を知っていたとしたら、今どんな気持ちで過ごしているのだろう…。
つい先日、犯人を殺すと彩香に宣言したばかりだ。
まさかそれが彼女の兄だったとは……。
「せや…」
ジャケットから携帯を取り出すと、彩香の履歴から発信を押す。
が、耳元で流れてくるのは、電源が入っていない事を知らせるアナウンスだった。
「何でこないな時に繋がらんねん…」
急に彩香の事が心配になる。
「あ、せや…あそこならおるかも知れんの」
真島はそう呟くと、足早に目的地へと急いだ。
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