「お前、この件何処まで知っとんのや」
「だから、知りませんって。手、離して貰っていいですかねぇ」
こんな状況下でも飄々とした秋山の態度が気に入らないのか、更に腕に力を込める。
「あの人が兄貴に会っとるのは確認済みや。それになあ、何の理由も言わんと、ただこの店頼むような無責任な事はせん人や。違うか?」
真島の言葉に秋山は暫く黙っていたが、そのうちため息をついた。
「……はぁ、全く察しのいい事で…。そうですよ、彼女のお兄さんの事は聞きました。あんたがその人を探してる事も、その理由もね」
それを聞くと、真島は乱暴に手を離す。
「で?あの人は今何処におるんや」
「真島さん…あんた……彼女をどうするつもりなんだ?」
「お前には関係無い話や」
真島の言葉に秋山はフッと笑う。
「それが、俺にとっては大問題でね」
「あン?」
「俺はね、惚れてるんですよ彩香さんに。あんたが彼女に会うずっと前からね」
真島は眉間の皺を深くして秋山を見る。
「だから、彼女の居場所を知っていても教える気はありませんよ」
暫く二人対峙したまま沈黙が続いたが
「……ほうか、ならしゃあ無いわ」
彩香が秋山に頼っていたという事が少し癪ではあったが、彼女が無事だと知り内心安堵していた。
意外とあっさり引き下がる真島に、秋山は若干拍子抜けしながら訊いた。
「真島さん、あんたはどうなんだ?彼女の事どう思ってる?」
その質問に、真島はニヤリと笑う。
「……惚れとる…言うたら、どないする?」
「……彼女の兄を殺すのか?真島さん」
真島は真顔で秋山を見た。
その表情からは、何も感じられない。
「殺せるのか?」
暫く真島は無言でいたが、フンと鼻で笑うと。
「けじめはけじめや。誰の兄貴だろうが関係あらへん」
そう、言い捨てると真島は店から出て行ってしまった。
「真島さん……あんた…彼女を天涯孤独の身にするつもりか?」
秋山は悲痛な面持ちで呟いた。
彩香はホテルの部屋のベッドに横になっていた。
左手の薬指の指輪を、ボーッと見つめている。
真島への想いに気付いてから、外した方がいいかと思ったのだが、何となく外せずにいた。
あれから、数日。ビジネスホテルを転々としていた。
今は、ミレニアムタワー近くのホテルに宿泊いている。
危険だとは分かってはいたが、会えなくても真島の近くにいたいと思ったからだ。
唐突に部屋の中を電子音が鳴り響く。秋山に借りている携帯電話だ。
「彩香さん?」
出ると、携帯電話の主の声だった。
「秋山さん…。どうしました?」
「良かった、無事なんだね?…いや、今ロンディネの前を通ったら男が何人か店の前に張っててね、胸のバッジは真島組ではなっかったけど、多分東城会の何処かの組の連中だと思う。きっと君の事を嗅ぎ付けたんだろうね」
「……そうですか…」
「だから、あまり出歩かないように、いいね」
そう言い残すと電話は切れた。
「………」
彩香は窓の外を見た。
部屋はミレニアムタワーの入り口が見下ろせる位置にある。
もしかしたら、彼の姿が見られるかも知れないと期待していたが、残念ながらまだ一度も見かける事は無かった。
彼以外の人が出入りするその場所を眺めながら
真島に会いたい……。
そう思った。
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