「おう、彩香ちゃん」
扉を開けると、パイソンのジャケットにレザーのパンツの真島がカウンターで軽く手を挙げた。
前と変わらない出で立ちに、何故か安心感を抱く。
「久し振りやのう」
もう、会う事も出来ないかと思っていた彼との再会に、胸の高鳴りを抑えながら椅子に腰かける。
隣に座る彩香に飲み物の注文を促すと、会いたかったでと嬉しそうに笑った。
「自分、マンションにも帰ってへんみたいやけど、今何処におるん?」
「え?…何処って……その……」
秋山のアパートとは何となく言いづらく、言葉を濁した。
「うん?どないしたん」
訝しげに顔を覗き込む真島に、どう答えようかと迷っている時、彩香の携帯が鳴った。
画面を見ると、秋山からの着信だった。
それを目ざとく目にした真島が、彩香の手から携帯を取り上げると、画面の表示を通話にスライドさせる。
「あっ!!ちょ…真島さんっっ!?」
「何の用や?」
機嫌の悪そうな声で出ると
「……え…真島さん!?何で彩香さんの携帯にあんたが出るんだ?」
受話器から、驚いたような秋山の声がした。
「何でって、そりゃ今一緒におるからに決まっとるやろが」
「……彩香さんに代わってもらえますか?」
「嫌や」
意地悪そうにニヤリと笑う真島に、
「真島さん!!返してくださいっ!!」
と、自分の携帯を取り返そうと手を伸ばすが、ヒョイとかわされる。
「そこ、何処ですか?」
溜め息をつきながら秋山は訊いた。
「俺が馬鹿正直に教えると思うとるんか?」
「……ですよね」
その時、セレナの扉が開き、サラリーマンの二人組が入って来た。
「ん?何やいきなり切りよった」
けったいな奴やのう、と携帯電話を彩香に返す。
黙って睨む彩香に気づいた真島は
「すまんのう、邪魔されとう無かったんや」
ヒヒッと白い歯を見せて笑った。
そんな彼を見たら、怒る気も無くなってしまい彩香はため息をつく。
「ああ、せやった、あんたの兄貴の事やったな」
思い出したかのように言うと、ロックのウイスキーをひとくち口にする。
「実はな…」
真島がグラスを置いて話そうとした時だった。
カランカランとウエルカムベルの音がしたかと思うと、背後から声がした。
「ああ、やっぱりここだった」
振り返ると、秋山が扉の前に立っていた。
「秋山さんっ!!どうしてここが?」
「電話口からここのベルの音が聞こえてね、もしかしたらと思ったんだ」
そう言って、親指でウエルカムベルを指すと彩香を挟んで座り
「どうも、真島さん」
と挨拶をした。
「随分と早いご到着で」
と、不機嫌をあらわにした真島はそっぽを向いて皮肉っぽく言うと
「あれ?知りませんでした?俺の会社ここの上なんですけど」
と、今度は天井を指さす。
「あー、完璧店選び間違ごうたわ……」
そう言って真島は肩を落とした。
「さっきの電話…何か用があったんじゃないんですか?」
彩香は気になっていた事を秋山に尋ねる。
「ん?ああ、今日俺が言った事でちょっとね。悩ませてるんじゃないかと思って」
そこに真島が口を挟む。
「なんや、彩香ちゃん。こいつに何か言われたんか?」
「え?えっと…その…」
困ったようにチラリと秋山の方へ目をやると
「秘密ですよ」
と言って意味ありげに片方の唇を上げて笑った。
そんな秋山の態度が気に入らなかったのか、真島は不愉快そうに彼を睨む。
「そんな事より真島さん。兄の事話してくれるんじゃなかったんですか?」
場の空気を変えたくて、彩香は話を逸らす為、聞きたかった事を促した。
「ああ、せやったな」
「何だ、お兄さんをだしに彼女を呼び出したんですか?」
「人聞き悪い事言うなや。聞きとう無かったらお前はさっさと帰れや」
眉間に深い皺を寄せる真島に
「いえ、是非聞きたいです。どうぞ、続けて下さい」
と笑顔で促す。
面白く無さそうに軽く舌打ちをすると、真島はタークチカからの電話の事を話し始めた。
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