「……おぅ」
呼び出し音が途切れ、真島の声が受話器を通して聞こえた。
「あ、あの真島さん?」
「……何の用や?」
いつもの彼とは違う、冷たい口調に彩香は冷水を浴びせられた感覚に陥る。
「いえ、昨日の事で訊きたい事がありまして…」
「何や?」
「帰り際…真島さん、怒っていませんでした?」
彩香の問いに、暫し無言でいたが
「……別に、怒ってへんわ」
と、素っ気なく言った。
「……そうですか…」
そう言われると、それ以上突っ込んで訊く事も出来ない。
「用事。それだけやったら切るで」
「え、あ、真島さんっ!?」
彩香が引き止めようとした時には、既に通話は切られていた。
「………」
嫌われてしまった?
訳も分からないまま、彩香は携帯電話の画面を見つめながら暫く身動きが取れない程のショックを受けていた。
それから一週間。何も手に付かない日が続いた。
もちろん、あれから真島からの電話はおろか、メールさえ来ない。
あんな態度を取られたので、自分から連絡する勇気も湧かないでいた。
このまま、彼とはもう会えないのだろうか……。
そんな不安が胸を過ぎり、胸が苦しくなる。
だが、このままこうしている訳にもいかない。
大きなため息をつきベッドに横になっていた重い身体を起こすと、軽く身支度を整え部屋を出た。
自分にはやるべき事がある。
ロンディネの再開だ。
亡き恋人の父親に託されたあの店を、このままにしてはおけない。
それに、何かしていた方が気が紛れるような気がした。
その途中、ミレニアムタワーに足を向ける。
特に何かを期待していた訳ではないが、何となくそうしたかった。
57階はあの辺りだろうかと、巨大な建物を見上げていると
「姐さんじゃないですか?」
と後ろから声を掛けられドキリとする。
振り返ると、以前真島に呼び出された時対応してくれた構成員が立っていた。
「ああ、やっぱりそうだ」
そう言うと、彼は彩香に向かって会釈をしたので、自分も思わず頭を下げる。
「親父に用で?」
低い姿勢のまま、そう尋ねられ少し焦る。
「い、いえ、たまたま通りかかっただけなんで」
彩香が答えると「そうですか」と言った後、何か言いたげな表情で見つめてくるので
「……何か?」
と訊いてみた。
「あ、いえ……こんな事訊いていいものかと思ったんですけど…姐さん、最近親父と何かありました?」
「……?」
少し首を傾げてみせると、彼は腕を組み神妙な顔つきになる。
「いえね…ここ一週間程、親父がだいぶ荒れてまして…ちょっとした事ですぐキレるし、俺ら下っ端がやるような仕事にも自ら出向いて大暴れする次第で…」
「………」
「それに、女遊びも前より……あ…」
彼がしまったというような顔をしたので、慌てて真島との関係を否定した。
「あ、気にしないで下さい。真島さんとは全然そんな関係じゃないですから」
構成員は「え?」と驚いた顔をした。
「そうなんですか?いや、俺らてっきり……すいやせん」
そう言って笑って頭を掻いた。
「親父、一体どうしちまったんでしょうね…」
そう独り言のように言うと、「じゃあ、姐さん。また顔出してやって下さい」と言い残すと、ミレニアムタワーに入っていった。
一週間……丁度セレナで会った時からだ。彼が荒れているのは、やはりあの事が原因なのだろうか…。
彩香は再び、困惑した表情で目の前のビルを仰ぎ見た。
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