秋山の提案から暫くは、そんな機会も訪れず。
何度か、街で彼を見かける事はあったが、接触出来ずにいた。時折、こちらに気づき目が合う事があったが、やはりすぐに逸らされるので、近づける雰囲気でもない。
事務室でパソコンのホームページに従業員を募集するページを作る作業をしながら彩香はため息をつく。
その時、ガチャリと扉が開いた。
驚いてそちらを見ると、そこには泣きそうな顔をした瑠伽が立っていた。
「え?瑠伽君!?」
「オーナーぁぁ!!酷いじゃないですかぁ!!」
訳が分からず固まっていると、彼は彩香の傍まで速足で近づき、テーブルに両手をついた。
「秋山さんに聞きました。店開けるんなら、俺に声かけて下さいよぉ…」
「……あ、ご、ごめんね」
「それとも、俺は店に必要とされていないって事ですか?俺っていらない子ですか?」
変わらず情けない表情で自分に詰め寄る瑠伽に、何故か思わず吹き出してしまった。
「い、いらない子って…そんなんじゃ無いから」
息を整え、改めて瑠伽を見る。
「勝手に店閉めちゃってごめんね。オーナーとして失格だと自分でも思う」
そう言って頭を下げると、瑠伽は彩香と対面するように座った。
「それはいいんです。何か色々大変だったって聞きました。……大丈夫ですかオーナー…ちょっと痩せましたね」
瑠伽は心配そうに彩香の顔を覗き込むので、それに笑顔で答えた。
「そうね、色々あったけど大丈夫よ。それより今はお店の開店準備をしないとね。手伝ってくれる?」
そう言うと、彼はパッと顔を輝かせ。
「当たり前じゃないですか。秋山さんにも了解得てるんで、俺明日からこっちに来ますよ。女の子にもうちが開店する事伝えておきますね」
「うん、お願い。でも、無理にじゃなくていいよ。戻って来たい子だけでいいから」
「オーナー…。分かりました」
正直なところ、一人では不安だったので瑠伽が来てくれた事が嬉しかったし有難かった。
「あ、そう言えばさっき兄貴に会いましたよ」
彩香の心臓が跳ねる。
「……真島さんに?」
「ええ、それが……身体のあちこち血がついてて、雰囲気もいつもの兄貴じゃない感じだったんで、声かけるか迷ったんですけど……」
「………」
「ロンディネが開店するかもしれないって話をして、また遊びに来て下さいって言ったんですけど……最近忙しいからって、何か素っ気なく返されました」
「……そう」
やはり、彼は自分に会う事を避けている。
沈む気持ちを顔には出さないように、止まっていた手を再びキーボードの上に置いた。
「オーナー……兄貴と喧嘩でもしたんですか?」
瑠伽は何かを感じたのか、心配そうに訊いてきた。
「え?」
動揺しながらも、無理やり笑顔をつくる。
「そんな事無いよ。真島さん、たまたま機嫌が悪かったんじゃない?」
「そう……ですか…」
少し納得していない様子の瑠伽だったが、それ以上詮索はしてこなかった。
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