「真島さんを呼び出してどうするつもりですか?」

彩香とマリアは神室町内の雑居ビルの地下に居た。

どちらもロープで腕を背中側で縛られ、埃の積もる床に座らされている。

ビル全体に人の気配がしない。建物の古さから、老朽化の為取り壊されるのを待つだけのビルのようだ。


「さあて、どうしようかねぇ……」

男は薄ら笑いを浮かべ、少し離れた所から二人に対峙するように、ソファーに足を組んで座っている。

「まあ、ただでは殺さないとだけ言っておこうかなぁ……」

この人は彼を殺すつもりでいるようだ。

彩香は、辺りを見回した。

ガランと広い空間には、テーブルやソファーが所々に散乱しており、カウンターとその奥の棚が、元はここが飲食店だった事を窺わせている。

「ごめんなさい、巻き込んでしまって……」

横に座るマリアが申し訳なさそうに謝ってきた。

「ううん、謝らないで。あの人も言ってたでしょう?私も全く無関係って訳じゃないから」

「……でも、……やっぱりごめんなさい…」

そんな彼女の様子から、この三人の間に何かあったんだと感じた。

「あの人…武野っていって、元東城会の武野組の組長だった人なんです」

「東城会の…?」

マリアがコクリと頷く。

「うちの両親が借金してた金融屋が、彼と繋がってたみたいで、当時高校生だった私に目をつけた武野が借金を肩代わりする代わりに、私を……」

「………」

「勿論、両親は反対しました。でも……それで借金地獄から解放されるんならと、私から武野の女になる事を申し出たんです」

「そんな……あなたまだ高校生だったんでしょう?」

それを聞いたマリアは口元に薄っすらと笑みを浮かべた。

「そうするしか無かったんです。毎日取り立ての人達からの嫌がらせで、みんな参っていたから……それからは、私にとって本当の地獄でした。薬漬けにされて、ほぼ監禁状態で、相手をするのも武野だけじゃなかった。数人の相手をさせられた事もありました」

彩香は縛られている手に、グッと力を込めた。武野への怒りが沸々と湧いてくる。

「最低の男ね……」

押し殺すように低く呻く。

それから、時間の感覚も分からないまま狭い部屋で繰り返される行為に、限界を感じていた彼女は死ぬ事を考え始めていた。

真島に会ったのはそんな時だったという。

武野の行為が、東城会内部で問題になった。

そうでなくても、彼は組織の中では問題行動の多い人物だったらしい。しかも今回は相手が未成年という事もあり、これが世間に明るみになれば東城会としても面倒な事になる。

ここで、東城会は真島に白羽の矢を立てた。

話し合いに応じる男ではないという事を彼らは知っていた。そこで組織の中でも武闘派と謳われる彼を選んだのだった。


「あの時…暗い部屋でボロボロの私を助けてくれた吾朗ちゃんは、本当に神様に見えた……」

遠い目をして語る彼女は、恋をする女の顔だった。

この子は本当に真島の事が好きなんだ……。

複雑な思いでそんなマリアを見つめた。

「それで、武野は破門。武野組も解散したみたい。まあ、これは吾朗ちゃんから聞いただけで私は見てないんだけど、だいぶボッコボコにしちゃったみたい。それ以来神室町から居なくなったって聞いたんだけど……」

その時、武野が急に立ち上がり、こちらに向かって歩いて来た。

それに気づいた二人はハッと顔を強ばらせる。

「おいおい、何二人でコソコソしてんの?逃げようって相談なら無駄だよ?」

マリアは武野を睨みつける。

「おー怖い顔しちゃって。あの時の清純そうなお前も良かったけど、そんな恰好のお前もいいねぇ。なあ、また仲良くしようぜ」

「嫌っ!!触らないでっ!!」

武野はショートパンツからスラリと伸びる脚を、いやらしい手つきで撫でると、拒絶反応を起こしたようにマリアが身をよじって叫んだ。

「やめてっ!!その子から離れなさいっっ!!」

先程のマリアの話を聞いて、武野に言い知れぬ怒りを感じていた彩香は思わず声を上げると、お?という顔をして今度はこちらに近づいて来た。

「いいねぇ…。お姉さんの命令口調ってのもゾクリとくるなあ」

そう言うと、目の前でしゃがみ込み目線を合わせてきた。

「よく見るとあんたも俺のタイプだ。三人で楽しもうか?……ああ、俺両方の玉潰されてるから、ガキが出来る心配もないよ?」

男の言葉に背筋が凍り、嫌悪感から顔を歪ませる。

「誰が、あんたみたいな最低な奴と。冗談じゃない!!」

瞬間、左の頬に痛みを伴う衝撃を受け、倒れこんだ。

口の中に鉄の味が広がる。

「やめてっっ!!」

殴られたんだと分かったと同時に、マリアの悲痛な叫びが聞こえてきた。

「気の強い女は好きだけど、生意気な女は嫌いなんだよね」

武野は冷めた表情で立ち上がると、おもむろに携帯電話を取り出した。

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