「オーナー」

コンコンとドアがノックされ、扉越しに瑠伽が彩香に声を掛ける。

「真島さんがお見えになっています」

「そう、すぐ行く」


あの日以来、真島は店を気にかけているのか、ちょくちょく『ロンディネ』に顔を見せるようになっていた。




「おう、オーナーはん。遊びに来たで」

彩香が事務室に訪れると、いつものソファーで真島が寛いでいた。


「真島さん。うちを気にかけて頂けてるのは有難いんですけど、こんなにちょくちょく来られて、お仕事の方は大丈夫なんですか?」

コーヒーを淹れながら、前から気になっていた事を質問する。

「おう、だいたいの事は下のモンで間におうとる。俺が動くんはもっとデッカイ仕事の時やねん」

「でっかい仕事…ですか?」

「……ま、オーナーはんは知らんでええことや」

真島はそう言うと、コーヒーをすすった。



極道の仕事というのを彩香はあまり詳しくは知らない。だが真島が詳しく教えてくれないのは、あまり大きい声では言えない事なのだろう。
生きる世界が違う人なんだなと、彩香は改めて感じた。



「なんや…。俺がここ来るんは迷惑か?」



トーンを落とした声に、彩香は少し驚き彼を見る。
両手で持つコーヒーカップに目線を落とす、真顔の真島がいた。


こういう時の彼は少し怖いと彩香は感じる。
優しい時と真面目な時、真島はまとうオーラのようなものがガラッと変わるのだ。
本気で怒らせたら、この人はどれだけ怖いのだろう…。

『狂犬』と呼ばれる真島のその姿を、彩香は想像も出来ない。



「そんな事は無いですよ。真島さんがいて下さるとこちらとしても安心ですし、それに真島さん、瑠伽君にだいぶ懐かれてますよね?」

「おう、あの店長か?なんや、ワシの事『兄貴』言うて慕ってくれとる」

彩香の言葉に笑顔で応える真島に、ホッと胸を撫で下ろす。

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