「お久しぶりです。真島さん」
銃を向けられている事など気にもしていない様子で、真島は武野を睨みつける。その眼光はナイフのように鋭く光っていた。
「ホントに一人で来たんですか。しかも獲物が金属バットとは……あんたらしいねぇ」
「お前ら雑魚相手するのに、俺一人で十分やろ」
真島はバットの先を武野に向けた。
「これかてハンデや」
目を見開いて白い歯を見せてわざとらしく笑うと、それを聞いた武野は少し不愉快そうに眉を顰めた。
「何処までも俺を舐めてくれますね。でもあんた、自分が今どういう状況か全然分かっちゃいない」
銃口を真島に向けたまま、後ろに下がる。
そして、彩香とマリアが居る場所まで移動すると、その銃を今度は彩香の頭部に向けた。
「―――っ!!」
それを見た真島の顔に、焦りの色が浮かぶ。
「ただの餌として連れて来た訳じゃないんですよ?この女の頭に穴開くの、見たくはないでしょ」
先程より一層険しい顔で武野を睨みつけたが、俯いて首を横に振り、盛大に溜め息を吐くと、持っていた金属バットを放り投げた。
バットが床に落ちる音がフロアに響く。
「やる事がほんま下っ衆いのぅ」
そう言って両手を頭の高さまで上げ、降参のポーズをとった。
「しゃーないわ。好きにせい」
「――真島さん!!駄目っ!!私の事はいいから!!」
真島は彩香の方に目線を送ると、再び武野に目をやる。
こんな状況なのに、彼の口元は笑みを浮かべている。
「その余裕の顔……いつまで続きますかねえ」
武野は再び真島に銃を向けると、引き金を引いた。
乾いた破裂音が鳴り響き、真島の左肩のジャケットがじわりと血で滲む。
だが、真島の態勢も表情も変わらない。武野を見すえたまま挑戦的に笑っている。
「―――吾朗ちゃんっ!!」
マリアが悲鳴をあげる。彩香は青ざめ声もあげられない。
初めて目の前で人が撃たれる事にショックを受けていた。
―――真島さん……!!
間を置かず、今度は二発の発砲音。
弾は真島の右の太ももに命中した。
「……ぐっ…」
さすがに真島も眉間に深い皺を刻み、その場に崩れるように膝をついた。
「やめてっ!!もうやめてっっ!!」
堪らず叫んだのは彩香だった。
「何でもするから!!もうやめて下さいっっ!!」
その後の「お願いします」という言葉は、もう嗚咽で声にならなかった。
武野はそんな彩香を見下ろし、愉快そうに口の両端を吊り上げた。
「何でも……ねえ。こいつ始末した後でたっぷり遊んでやるよ」
「あ…かんで、彩香ちゃん…」
声のする方をみると、膝をついた態勢のままこちらを見てニヤリと笑う。
「そんな奴にそんな事言うたら、ほんまに何されるか分かったもんやないで」
自分の台詞を言い終わった直後、真島は目を見開き何かを武野に向かって投げつけた。
「………っ!?」
驚いた武野は引き金を引き、その弾は真島の頬をかすめ、赤い筋を残した。
真島が投げつけた棒状のモノは、ヒュンっと空を切り、縦に回転しながら銃を持った手に綺麗にヒットした。
「ぐあっ!!」
武野は銃を取り落とし、右手を押さえる。
真島はすかさず武野に向かってダッシュした。さっき太ももを撃ち抜かれた人間の動きとは思えない速さだった。
「うぉらあああぁぁぁっっっ!!」
振り上げられた拳は、武野の顔の形が変わる程の勢いでめり込み、鈍い音とともに彼の身体が吹っ飛ぶ。
そして、床に倒れたその身体を間髪入れず蹴りあげた。
「―――っっ!!」
武野は声にならない声をあげうずくまる。
その髪の毛を乱暴に掴み、更にその顔に強烈な蹴りを見舞った。
「………」
武野はそれを最後にピクリとも動かなくなった。
肩で荒く息をする真島は、足元に転がる武野の様子を確認した後、ゆっくりとこちらに振り返る。
「すまんな、ちょいと手こずってもうた……」
撃たれた足を引きずるように、こちらに歩いて来る。
相当辛い筈なのに、それを少しも顔に出さないのは、自分たちに心配をさせない為だろうか。
途中で、先程投げた物を拾いあげる。
それは、美しい装飾をあしらった短刀だった。
手慣れた手つきで鞘を引き抜くと、二人を拘束していたロープを切る。
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