真島が目覚めた時、最初に目にしたのは白い天井だった。
柄本医院に来たところまでは覚えている。
失血の為か、気を失っていたらしい。
―――こんなんで意識のうなるやなんて…俺もヤキが回ったもんやのぅ……。
起き上がろうとした時、閉じられたカーテン越しに会話が聞こえてきた。
「あー……腹は結構痣になってるね。まあ、症状を診る限り内臓は大丈夫そうだから問題ないとは思うけど」
「そうですか、良かった……」
声の主は、ここの院長の柄本と彩香のようだ。
内容から彩香は腹部も殴られたか蹴られたかしたのだろうか。
再び武野に対して怒りが込み上げてきた。
「それで……真島さんは…?」
「ああ、心配無い。肋骨にヒビが入ってるだけだから、安静にしてればいずれ治る。弾も全て貫通していた。摘出の面倒が無くて助かったよ」
「肋骨にヒビって……結構な怪我ですよね?」
心配そうな彩香の声に、真島は勢いよくカーテンを開けた。
「その人の言う通りや。心配あらへん」
ベッドに腰掛け煙草を取り出す。
「真島さんっ!!」
「ここは禁煙だ」
柄本の言葉に真島は軽く舌打ちをすると、彩香を見た。
「彩香ちゃんこそ大丈夫かいな?腹も何かされたんか?」
「ああ……ちょっと蹴られただけで…大丈夫ですよ」
「……ほんま、済まんかったのう…」
申し訳なさそうな顔で謝る真島は、少し目線を下げ暫く無言でいたが
「秋山の言う通りやったな」
「……え?」
「俺は、あんたみたいな人に関わっちゃあかん人間なんや。今回の事で痛い程身に染みたわ」
「そんな事……」
「俺は……もう、あんたに関わらん事にするわ。街中で会っても声、かけんといてな」
「………真島…さん?」
「もう行くわ……」
真島はそう言って立ち上がると、出口の扉に向かう。無言のまま、彩香の後ろを通り過ぎた。
………何か言わなければ……。
このまま、本当に彼との接触が無くなってしまうのは悲しすぎる。
膝に乗せた両手をグッと握りしめ、声をかけようと振り向いた時、ドアノブに手を掛けたまま動かないでいる彼の姿が目に映った。
「………秋山と…付きおうとるんか?」
「え?……それは…」
ドアノブをじっと見つめたままの真島の言葉に、咄嗟に否定しようとしたが、その時秋山が言っていた事を思い出した。
ここは彼を信じて、提案した事に従おうと思い直す。
「……はい」
「………ほうか…」
彩香の返事に、間を置いてそれだけ言うと、こちらを見ること無く扉を開けて出て行こうとする真島に、柄本が早口で言う。
「言っても無駄だと思うが、安静にな」
背中で聞きながら、それには返事もせずに真島は出て行ってしまった。
彩香はその扉をじっと見つめていた。
………これで…良かったんだろうか?
本当にもう、彼とは会話を交わす事も出来なくなってしまうかもしれないのに……。
キュっと唇を固く結び、柄本に向き直る。
「あの…」
「ん?」
彩香は少し迷った後、意を決したように、口を開いた。ここなら、気にかかっていた事を解決出来るかもしれない。
外に出た真島は、煙草を吸おうとポケットをまさぐった。
「あかん……」
いつも煙草で膨らんでいるその場所には何も入ってなく、瞬時に病室に忘れてしまった事に気付く。
「しゃーない…この辺で売っとるとこ何処やったっけ……」
二、三歩進み少し考えた後、くるりと踵を返し再び柄本医院へ戻る事にした。
―――あんな事自分で言うといて…未練がましいのぅ…俺も…
口元に自嘲ぎみの笑みを浮かべ、病室のドアノブに手を掛けた時だった。
「生理が来ない?妊娠の可能性って事か……」
扉越しの柄本の言葉に、真島の動きがピタリと止まる。同時に片方だけの目が驚いたように見開かれた。
「心当たりは?」
「……あります…。一ヶ月とちょっと前に……」
真島は目を細め、ノブに掛けた腕をダラリと下げた後、そのままその場から無言で立ち去った。
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