「………」

それから約一時間後、彩香はミレニアムタワーの近くで、物陰に隠れながらその入り口を見ていた。


……ちょっと遠くから様子を見るだけならいいよね?


真島が姿を現す保証は無いが、部屋でじっとしているよりはマシだと思ったのだが……。


何か私……真島さんのストーカーみたいじゃない?

若干情けない気持ちになりながら、やっぱり帰ろうかと思った時だった。


「姐さん……?」

後ろから声をかけられ、ビクッとして振り返ると、前にミレニアムタワー前で会った構成員が不思議そうな顔で立っていた。

「こんな所で何を……?親父だったら、今出てますけど…」

「……っあ…あの、いいんですっ!!用がある訳では無いんでっっ」

変なところを見つかってしまい、動揺を隠せないまま焦って答えた。

「その……真島さんの怪我の容体はいかがですか?ちゃんと安静にされてます?」

何故彩香がここに居るのかを察したのか、構成員は「ああ…」とクスクス笑う。

「親父なら大丈夫ですよ。普通の奴とは違いますから。ですが……」

彼は少し顔を曇らせて片手を自分の顎に添えた。

「………?」

「少し気落ちしてるみたいなんですよ。怪我のせいって訳でも無いようで、たまに考え込む事が多くなったというか……姐さん心当たりあります?」

訊かれて、彩香は少し考えてみたが、その原因を何も思い浮かばなかったので首を横に振った。

「そうですか……」

当てが外れたような顔をすると、すぐにその表情を戻し、彩香の口元の傷に目を落とした。

「姐さんこそ、大丈夫ですか?大変な目に遭いましたね」

「あ、ええ。私は平気です。こんなのすぐ治りますよ」

「親父、もうすぐ戻って来ると思うんで、よかったら事務所で待ってて下さいよ」

にこやかに言われたが、慌てて手を振る。

「いえっ!いいんですっ。大丈夫ですから。ちょっと心配だっただけなんで」

「じゃあ私はこれで」そう言うと、彩香はそそくさとその場を後にした。


「ちょっとでも会ってけば親父も喜ぶのに……」

彼は頭を掻きながらタワーの入り口に向かうと、黒服の構成員が数名立っていた。

自分もそこに加わると、間もなく黒塗りのベンツが到着した。

後部座席のドアが開き、姿を見せたのはいつもの蛇柄のジャケットではなく、ダークスーツに身を包んだ真島だった。

「お疲れ様です」

一斉に構成員達が会釈をし、左右に道を開ける。

その間を無言でゆっくりと歩いて行く真島に、先程の構成員が近づいた。

「親父、幹部会お疲れ様です。先程、姐さんとそこで会いまして……」

それを聞いた真島の歩みがピタリと止まった。

「彩香ちゃんが!?ここに来てたんか?」

「ええ。親父の身体を心配してました」

「どっち行ったんやっ!!」

「七福通りの方へ向かわれましたが……」

彼の言葉を聞き終わる前に、真島はミレニアムタワーの通りまで駆けると、彩香が歩いて行ったであろう方向を食い入るように見つめたが、彼女の姿を見つける事は出来なかった。

追いかけようとし、再び走りかけた足を止め、溜め息をつく。


………何しとんのや俺は…。追い掛けてどないすんねん……。

真島は肩を落として、くるりと身体を反転させると、再びミレニアムタワーへと戻って行った。

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