あの日以来変わらず街中で目が合っても、真島は彩香に近づいて来る事は無かったが以前とは少し様子が違っていた。

自分とすれ違う時に、彼は口元を緩ませ優しい目でこちらを見ながら通り過ぎていくようになった。



前よりは、彼の自分への態度はマシになったとはいえ……。


―――やっぱり少し寂しいな……。


店の売り上げを計算しながら、彩香は独りため息をつく。

時計に目をやると、3時を過ぎたところだった。

既に閉店から1時間以上経っていた。


真っ直ぐに帰る気にもなれない……。

以前、真島に連れて行ってもらった居酒屋を思い出した。


―――少し飲んで帰ろうか……。

ノートパソコンを閉じ椅子から立ち上がった。





眠らない街神室町は、深夜になっても人の途絶える気配は無い。

人影の無い場所を探す方が難しいかもしれない。


―――不夜城とはよく言ったもんやの……。


この国屈指の繁華街を、真島は一人歩いていた。

自分がよく通う居酒屋の前を通り過ぎようとした時だった。ふと、その入り口に目を向ける。

店内は相変わらず混み合っていたが、その中にカウンターに座る彩香の姿を見つけた。どうやら一人のようだが……。


彩香の前にある飲みかけのビールのグラスを確認すると、真島は慌てて店内へ入ろうと扉へ手を掛けたが思いとどまる。


―――酒なんて呑んだらあかんやろ。何しとんのや……。


入口にピッタリと張り付き、店内を食い入るように見ている長身の男を、道を行く通行人が何事かと注目している。



「吾朗ちゃん?」

不意に背後から自分の彩香を呼ばれ振り返る。

「何や、お前か……」

マリアは真島の腕に自分の腕をからめ、猫のようにすり寄る。

「何だは無いでしょ?心配してたんだから」


あの日、柄本医院まで付き添い傍に居ると泣くマリアを、若干鬱陶しく感じた真島は「たいした怪我しとらんのやからお前は帰れ」と言って強引に帰して以来だった。


「身体はどうなの?酷い怪我だったけど」

「俺を誰や思うてんねん。……っちゅうか、酒臭いなお前。呑んどったんか?」

よく見ると、マリアの顔がほのかに紅い。

「うん、セレナでちょっと飲んでた。そうそう、隣にエリーゼのオーナーが座っててね、一杯奢ってもらっちゃった」

へへっと笑うマリアの言葉に、真島はハッとした顔をする。

「エリーゼ?秋山がおったんか」

「え?うん……そんな彩香だったかな…」

それを聞くと、セレナのある天下一通りの方向へ目を向ける。

「……まだ…おるかもしれんのぅ……よっしゃ」

「ちょっと、どこ行くの吾朗ちゃん!?」

真島は呼び止めるマリアを無視し、天下一通りへと速足で向かった。

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