ほろ酔いで火照った身体を夜風に当てたくて、彩香はタクシーを自分のマンションから少し離れた所で降り歩いて帰る事にした。
空には綺麗な半月が浮かんでいる。
「………え?」
マンションの入り口に近づいて来ると、そこに人影がある事に気付いた。
その個性的な風貌は、遠くからでも分かる。
「真島さん?」
入口のアイビーの茂る垣根に腰を下ろし、真島は一人煙草をふかしていた。彼は自分の姿に気が付くと、軽く右手を上げた。
急いで彼の元に駆け寄ると、真島は「おう」と言うと持っていた煙草を足元に放り、それをギュっと片足で踏み消した。
「どうしたんですか?私に何か用が…?」
自分を避けていた彼が、マンションまで足を運んでまで会いに来るとはよっぽどの事に違いない。
真島は彩香と対面するように立ち上がると、少し難しい顔をして腕を組んだ。
「……ちょいと言いにくいんやけどな」
「はい……」
そんな真島の様子と声色に、彩香は少し緊張気味に返事をする。
「秋山と付き合うの止めぇや」
「……え?どうしたんですか?いきなり」
予想外の彼の言葉に一瞬混乱したが、そう言えば秋山と付き合っている事にしてあったんだと思い出した。
「あいつは……クズや」
「真島さん?」
「あんたが付き合う価値の無い男や」
「………理由を…教えて下さい」
唐突にこんな事を言うなんて、秋山に何か言われたに違いない。
「秋山さんに何か言われたんですか?」
真島はグッと言葉に詰まる。
―――言えるかいな…あんな事……。
「いや……それは…」
組んだ腕を解き、拳を握る。
「と、とにかくやっ!あの男を信用したらあかんっ!!あいつはっ……」
「秋山さんを悪く言うのは止めてください」
彩香にピシャリと言われた真島の目が大きく見開かれる。
「あの人に私は沢山救われました。同じオーナーとして尊敬もしています。そんな秋山さんの事を悪く言われるのは我慢できない」
キッと真島の目を睨む。
「それが真島さんでもです」
「彩香ちゃん……」
どうすれば分かってもらえるのか……。戸惑いと同時に真島の中で沸々と湧きあがる苛立ちの感情。
「……俺は…あんたの為を思って」
「余計なお世話です」
真島の眉間に深い皺が寄る。
「他に用が無ければこれで」
そう言って立ち去ろうとする彩香の腕を、真島は掴んで引き止める。
「ちょお待てや。話は終わっとらんやろっ」
その時、同じマンションの住人が何事かとチラチラこちらを見ながら中へ入って行った。
蛇柄眼帯の男が女と口論している……。あまり和やかな雰囲気とは言えない。
警察に通報されては面倒だと考えた彩香は、小さくため息をつく。
「立ち話も何ですから、続きは私の部屋でしましょう」
「お、おう。せやな」
真島はパッと掴んでいた手を離し、気まずそうに頭を掻いた。
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