「どうぞ。少し散らかっていますけど」

「おう、邪魔するで」

通された部屋はシンプルなインテリアで統一されていた。

独り暮らしの女の部屋に上がるのは初めてではないが……。


―――何や…緊張してまうな…。


「ビールでいいですよね?」

缶ビールをグラスに注ぎ、テーブルに置いた。

真島はグラスの置かれたテーブルにあるソファーに腰を下ろし、彩香を見る。彼女は対面するように座ったが自分の飲み物は用意していない。それは長居はして欲しくないとの、彼女の意思表示のように感じられた。


「さっきの話やけどな……秋山と別れる気ぃは無いんか?」

「……それは…」

「そないにあの男が好きなんか……?」

「………」


このままあの男との関係が続けば悲しい思いをするのは彼女だというのに……。

―――俺は…何もしてやれへんのか……。

彩香の悲しむ姿が脳裏に浮かび、真島は目を伏せた。


「あかん……」

「え?」

「俺なら……あんたを泣かせる事はせえへん」


真島は立ち上がり、彩香が座るソファーの前に立つと彼女を見下ろした。

「……決めたわ」

右手を伸ばし、彩香の頬に触れる。


「ま…真島さん?」

腰をかがめ、片足の膝をソファーの上に乗せると、ギシリと軋む音がした。

彩香は近づいて来る真島から逃れようとするが、両手で顔を固定された為逃げる事が出来ない。

「な、何するつもりですか!?」

こちらも両手で彼の身体を押し戻そうとするが、

「無駄やで」

そう言うと強引に彩香の唇に自分の唇を重ねた。

「………っンン!!」

チュっという音と共に唇を離すと、間近に真面目な表情の真島の顔があった。


「あんたを俺のモンにするわ」


彼の静かな口調に彩香の目が大きく見開く。


「どうしたんですか?いきなり……取りあえず離れて下さいっ」

再び両手で真島を押し戻そうとしたが、構わず真島はまた強引に唇を押し付ける。

「んゥ……やめっ……」

「はっ…あんたがあの男に好き勝手されとるの指咥えて見とるなんて、んっ……辛抱できへん…」

口づけながらそう言うと唇を離し、息を整える彩香をギュっと抱きしめた。

「せやから……あいつと別れて俺んとこ来いや…」

首筋に顔を埋め、そこに口を押し当て真島は続けた。

「あんたの事も、腹ん中の子も…全部まとめて俺が面倒見たる……せやから」

「ちょ…ちょっと待って下さい、お腹の子って……?」

「……すまんな…柄本医院で立ち聞きしてしもた」

真島はバツが悪そうに言うと「わざとや無いで」と付け加えた。

首筋の真島の息遣いにくすぐったそうに身を捩り、なんとか逃げようとするが彼はそれを許さない。更に腕に力が込められる。


「あ、あの…真島さん」

「んー?」

「私……妊娠して無いん……ですけど……」

「……は?」

間抜けな声を出すと、真島はパッと彩香から身体を離しマジマジと顔を見る。

「妊娠してない……?」

「はい」

「つ…つまり、腹ん中に子供はおらん……ちゅう事か?」

「……はい」

彩香の返事に、はあーと肩を落とすとトスンと胸の上に頭を乗せた。

「何や……俺の早とちりかいな、俺はてっきり……」


成程…と彩香は思った。先日の彼の不可解な言動もこれで全て合点がいく。

ロンディネでの真島を思い出し、思わず笑ってしまった。

「な、何笑うてんのや……」

「……笑ってませんよ」

「いや、笑うてたやん……まあ、でも、ほうか……勘違いで良かったわ」


真島は彩香の腕を掴み、無理やり立たせると、そのままベッドの方向へ強引に引っ張って行く。


「え?ちょっと、真島さん!?……あっ!!」

乱暴にベッドの上に放られ、いきなりの出来事に抵抗する事も出来ず倒れ込む。

慌てて振り返ると、上半身を露わにした真島が立っていた。

手にしたパイソン柄のジャケットを無造作に投げ捨て妖しく笑う。

その姿に彩香は息を飲んだ。

「ほんなら……こっちも遠慮せんわ」

表情を崩さないまま、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

「あ……」

これからされるであろう行為を想像し彩香は顔を強ばらせた。

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