彩香は喉の渇きを覚え目を覚ました。
窓の外は既に明るく、車の往来の音が微かに聞こえて来る。
隣では静かに寝息を立てている真島の寝顔……。
何時間か前までの行為が嘘に思える程、静かで平穏な朝だ。
薄く口を開けて隣で寝ている無防備な彼の「狂犬」とは程遠い姿にクスリと笑うと、起こさないように慎重にベッドから出ようとする。
が、グイと腕を掴まれそのまま後ろから抱きすくめられた。
「……何処行くねん」
「あ……起きちゃいました?」
「アカン…ここにおってや……」
「水、取りに行くだけですよ?」
彩香の言葉に「んー……」と眠そうに小さく唸ると
「ワシも飲みたい……」
と言った後、更に強く彩香を抱きしめ、うなじの辺りに顔を埋めて来た。
「……だったら腕、離して下さいよ」
「嫌や……」
寝起きの少ししゃがれた声で答える真島に、「水、飲みたいんですよね?」と問う。
「せや…」
「だったら離して下さい」
「駄目や」
先程よりもはっきりした口調で真島は言うと、肩で笑っているのが背中越しにわかった。
「もう、真島さん。離してください」
そんなやり取りが何だか妙に嬉しくて、彩香も笑い交じりに自分を抱きしめる筋肉質の腕を軽くペシペシと叩く。
「しゃーないのう……」
真島は腕の力を緩め解放すると、そのまま自分の腕を枕代わりにし、冷蔵庫へ行く彩香を目で追う。
取り出したペットボトルの蓋を緩め、それを真島に渡そうとしたが、彼は受け取ろうとしない。
「飲まないんですか?」
ニヤニヤと笑う彼に彩香は首を傾げると、真島は自分の唇をチョンチョンと指さし
「口移しがええ」
と悪戯っぽく笑った。
彩香が呆れた顔をすると、「えぇやん、減るモンや無し」と言いながら起き上る。
溜め息をついてベッドに腰掛け、水を一口含み真島を見ると、彼は変わらずニヤけた顔をしながらこちらに腕を伸ばしてきた。
そのまま彩香の後頭部に手を添え、ゆっくりと顔を近づける。
もう少しで唇が触れ合う距離まで近づいた時……。
ゴクリ…。
彩香が水を飲みこんだ。
その音を聞いた真島の動きがピタリと止まると、両手で彩香の頬を強めに挟む。
「お、ま、えぇーー…何で飲み込むねやぁ……」
怒ったように言い、「貸せっ」とペットボトルを彩香の手から引っ手繰るように奪うと、それを口に含み素早く唇を重ねてきた。
「ゥンーーっ!!」
彩香は唇を固く閉ざしてそれを拒む。
真島はその態勢のまま彩香をベッドに押し倒し、彼女の脇腹をツッと指でなぞった。
「っっ!!ンぐ……うっ…」
真島の不意打ちに思わず唇を開いてしまうと、すかさずそこに彼の咥内にあった水が流し込まれる。
少し温まったそれを、若干戸惑いながらも喉の奥に流し込むと、彼は満足そうに口元を緩める。
「もう、いきなり何するんですかっ!!」
「どや?美味いやろ?」
咳き込んで軽く睨んだが、真島は彩香の鼻に自分の鼻を押し付け、肩でクククと笑うと、再び唇を重ねてきた。
「……んっ…」
ゆっくりと咥内を味わうように動く彼の舌に、自分の舌を絡ませると、真島は両手で彩香のこめかみの髪の毛をすきながら固定し、更に深く舌を侵入させる。
やがて、唇を離し、彩香の首筋に軽く何度か口付けるとそのままそこに顔を埋めた。
「……真島さん?」
動かなくなってしまった真島に、彩香が呼びかける。
「俺なあ…」
彼はポツリと話し出した。
「今までずぅっと渇いとった……」
「………」
「何しても、渇きは癒されんかった……お前に会うてからずっと……」
「真島さん……」
耳元で囁くような彼の言葉に、何だか切ない、愛おしい気持ちになり、そっとその頭に自分の手を添え、優しく撫でてみた。
「やっとや……」
彩香の肌の温もりをもっと感じたいかのように、更に顔を埋める。
「やっと……」
かすれた声ですり寄る真島の背中に彩香は両腕をまわすとギュッと抱きしめた。
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