「ま…真島さんっっ!?」

自分の足元で、しゃがんで腹を抱えて笑っている予想もしなかった人物に、彩香は驚きの声を上げる。

「お、オーナーはん…プフッよ、よりによって『サザエさん』は無いわ」

腹を抱えて笑う真島に、彩香は赤面しながら悲痛な声を上げる。

「きき…きっ聞いてたんですかっっ!!」

「ちゃうちゃう『聞こえて』きたんや」

と、意地悪く言うと、彩香はあまりの恥ずかしさに、持っていたクロスで自分の顔を覆う。

「………」

恥ずかしすぎて声も出ないらしい。


「すまんすまん、あんまり楽しそうだったんで、ついつい盗み聞きしてしもた」

「やっぱり聞いてたんじゃないですかっ!!」

責めるような目で見る彩香に、イヒヒッと真島は悪戯っぽく笑うと

「あ、せや」

と、手にしていた包みを見せた。



「これ、オーナーはんが持ってきてくれた聞いてな」

「ああ、大事な用があるからと言われたんで、待ってたんですけど。やる事もあったんで置いて来ちゃいました」

「ホントは直接渡したかったんですけど…」すいません、と彩香は頭を下げる。

「おう、せやから、直接渡してもらお思うて持ってきたんや」

そう言って、真島はそれを一度彩香に返した。

「ふふっ、成程。あ、真島さんこの後何か用事あります?」

「いや、特に無いわ」

「それじゃあ、そこのシートに座ってて下さい」

そう言うと彩香は再びキッチンに姿を消した。



暫くすると、ワインとグラスを持って真島の元へ戻ってきた。

「折角なんで、乾杯しましょう」

彩香の言葉に真島の顔がほころぶ。

「ええんか?何や嬉しいわ」


静まり返る店内に、グラスを合わせる音が響く。



彩香は先程の包みを両手で差し出す。

「真島さん、お誕生日おめでとうございます」

「改まって言われると、何か照れくさいな…おおきに」

そう言って、包みを受け取った。


「開けてもええか?」

「どうぞ、気に入って貰えるといいんですけど…」

「オーナーはんのくれるもんなら、そこらの石コロでも嬉しいわ」

「もう、冗談ばっかり」

そう言って彩香は照れた様子でワインを口にする。


「おぉっっ!!ごっつえぇやん!!」

包みの中身を見て、真島は歓声を上げた。


入っていたのは、一本のネクタイだった。


黒いシルクの布地に、同じく黒の糸で先端部から蛇の刺繍が繊細に施してあり、見る角度により模様が浮き出るデザインになっていた。

「自分、ワシの好みよう分かっとるのう」

「ほんとですか?良かった」

「しっかし、こんなデザインのもんよう見つけたのう、何処に売っとたん?」


言われて彩香は少し困った顔をした。

「自分のイメージ通りのデザインの物がなかなか見つからなくて」

「ほう、そんで?」

「知り合いに頼んで、作っちゃいました」

へへっと笑う彩香に真島は驚いた顔をする。

「オーダーメードっちゅうやつか?」

「そうです。世界に一本しかないネクタイですよ?」

と得意げな顔をした。


「ほ、ホンマかいな…メッチャ嬉しいわ」

嬉しかったのはネクタイを貰った事にでは無い。
自分の為にそこまでしてくれた彩香の気持ちにだった。

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