「うー……寒っ!!」
昨日より雪の溶けた歩道を歩きながら、品田は首をすくめた。吐く息は白く、後ろに帯を引いて行く。
その足はピンク通りの一軒のファッションヘルスの前で止まった。
“アフロディーテ”
まだ開店前の看板にはピンク色の字でそう書かれている。
品田は暫くその場で立ち止まり、店の様子を窺っていたが、小さなため息が白い吐息になって口から漏れた。
「軍資金が無いと、中に入る事も出来ない……か。取材出来れば、でかい報酬貰えるんだけどなあ……」
ボストンバックからカメラを取り出し外観を何枚か撮ると、撮った画像を確認しまた歩き出した。
「お帰りなさい」
品田がリンクスの扉を開けると、エプロン姿のなつみが迎えてくれた。
「…………」
春樹は品田をチラリと見たが、無言でテーブルを拭き続けている。
「あ……ああ、ただいま」
品田ははにかむように笑い頭を掻くと、そのまま二階に上がって行った。
「はぁー……今日も客あんま来なそうだね」
そうぼやくと、春樹は厨房へと引っ込んで行った。
カチカチと時計が秒針を刻む音だけが聞こえる。
窓の外にはまばらに人が行き交うのが見える。
まるで、この空間だけ切り取られたかのように静かな時間が流れていた。
春樹は厨房で何をしているんだろうと思った時だった。カランとドアのウエルカムベルが鳴ったので、そちらに目を向ける。
「いらっしゃ……」
入って来た男を見た瞬間、なつみの顔色が変わった。
「なーんだ。客全然いないじゃん。これじゃ、いつまで経っても借金返せないんじゃない?」
そう言うと三人の男達は、なつみを見てニヤリと笑った。
品田はベッドに腰掛け、膝の上のパソコンと格闘していた。
「うーん……。画像の添付ってこれでいいのかな?」
送信ボタンをクリックすると、不安そうに画面を見つめ、頭を掻きむしる。
「はぁぁぁ……。これじゃちゃんと送れてるか分かんないや、やっぱアナログが一番だなぁ」
言いながらノートパソコンを閉じた時だった。下の階からガシャンとガラスの割れるような音が聞こえて来た。
「!?」
品田は驚いて顔を上げると、弾かれたように部屋を飛び出した。
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