「姉ちゃんっ!!」
床に倒れたなつみの元に、春樹が駆け寄る。
割れたグラスを踏みつけ、オールバックの男が近づいて来た。
「どけよガキ。お前に用は無ぇんだよ」
男は春樹の胸倉を掴むと、乱暴に突き飛ばそうとした。だが、春樹はその腕にしがみつき離そうとしない。
「この糞ガキっ!!」
無理やり引き倒すと、ガラス片の上に倒れた春樹の右手を踏みつけた。
「ぐあっー!!」
グリグリとその足に力を込められる。踏まれた右手からは、ガラス片が食い込んだのかジワリと血が滲み、床に小さな血溜まりが出来た。
その時だった。突如、オールバックの男の身体が吹っ飛んだ。
驚いて見上げた春樹の目に映ったのは、品田が拳を振り下ろした格好で立っている姿だった。そして、春樹の右手を見ると険しい顔で男を睨む。
「この……っ!!」
品田は大股でオールバックの男に近づくと、その胸倉を掴んだ。
「料理人の手だぞっ!!」
怒りをぶつけるようにそう怒鳴ると、自分の額を男の額に叩きつけた。鈍い音と共に、白目を剥いて気を失う男を放すと、品田はゆっくりと立ち上がる。
「……おっさん」
春樹を肩越しに見ると、彼は大丈夫というように笑って頷き、呆気にとられている残りの男達を見据えた。
「な……なんなんだお前」
突然現れたガタイのいい男に、戸惑いを隠せない様子の男達。
「表出ろよ。相手してやる」
品田が両手をボキボキ鳴らしながら言うと、二人の男は「クソッ!!」と舌打ちをし、倒れている男を担ぐと逃げるように出て行った。
バタンと扉が閉まると同時に、大きなため息をついて額の汗を拭いた品田は、二人の元へと駆け寄る。
「大丈夫?ああ、血が出てる。手当てしないと……」
「平気、ちょっと血が出ただけだって」
「なつみちゃんは?」
なつみは心配そうにこちらを見る品田に、私も大丈夫と笑って見せ、立ち上がろうとしたのだが……。
「危ないっ」
その拍子によろけてしまい、品田に支えられた。
「あーあ、足……痛めちゃったみたい……っうわ!!」
はははと、困ったように笑うなつみを、品田はひょいと横抱きに抱えた。
「えっ!!し、品田さんっ!?」
「ほら、暴れないで。確か俺が使ってる部屋に救急箱あったよね?」
「……う、うん」
「春樹君は、まず傷口を流水で洗っておいで」
「わかった」
なつみは自分を抱き上げる品田を見上げる。見た事も無い真剣な表情。加えて男性に抱きかかえられるという今まで無かった経験に、心臓が大きく脈打っているのを感じた。
「応急処置はこれでよしっと……。後は病院で適切な処置をしてもらうといい。破片が残ってると危ないからね」
「……サンキュー」
「なつみちゃんは、軽い捻挫みたいだから、暫く安静にしておくといいよ。……どうしたの?」
じっと不思議そうに品田を見るなつみに、彼は首を傾げて見せた。
「何か、手慣れてるなって……」
「あ、ああ。俺、昔スポーツやってたからさ、こういう怪我はつきものだったんだ」
「そうなんだ……」
さてと、と言って品田は立ち上がる。
「こんなんじゃ今日は営業出来ないね。下、片づけて来るよ」
品田はそう言うと、部屋を出て行った。
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