暫くすると、またバタバタと品田が階段を駆け下りて来た。その手には雑誌が握られている。
なつみが厨房に居る事を確認すると、女性の横に立った。
「君……。もしかしてマリンちゃん……だよね?」
そう言うと品田は女性に、雑誌のあるページを見せた。彼女はそれを見ると、途端に顔を曇らせる。
「……あなたは?」
「あ、俺こういうもんです」
そう言うと、品田はポケットから一枚の名刺を差し出した。
「夜遊びマガジン……?」
「うん。今度うちの雑誌で“風俗嬢ナンバーワン比較。名古屋VS東京”って企画が出ててさ。君が東京で一番売れてる子だから、一面で取り上げたいなと思って」
「……つまり、私を取材したい……と?」
「うん。お願いします」
「お断りします」
間髪入れずに断られたが、品田も食い下がる。
「君がことごとく取材を拒否してるのは知ってるよ。でも、俺もライターの端くれだからね、サクッと引き下がる事も出来ないんだよね」
すると、彼女は深いため息をついた。そして、目の前の雑誌に視線を落とす。
「こんな昔の雑誌、よく持ってましたね」
「昔って言っても、五年くらい前でしょ」
「……この記事……私が取材を断り続ける切っ掛けになった人が書いたものです」
その言葉に品田が驚いて記事を見直す。ライターのなつみは「河村宗一郎」。確かに、この記事以降、彼女が雑誌に取り上げられる事は無くなっている。
「その事は、ちょっと小耳に挟んだよ。君にしつこくしたとか何とか……。そっか、この人だったんだ」
「そういう訳なんで……」
彼女の言葉に被せるように、品田がボソリと呟く。
「この写真……」
「……え?」
彼は、テーブルの上の記事を見ながら溜め息をついた。
「君の魅力が半分も伝わって来ないね。勿体ない。実物はこんなに綺麗なのに……」
「そんなお世辞には乗りませんよ?」
すると、品田はテーブルに両腕を組み目線を彼女に合わせた。その人懐こそうな目が、真っ直ぐ彼女を見る。
「お世辞じゃないさ。俺ならもっと上手く撮る」
「…………」
「考えておいて。ね?」
そう言うと、品田は雑誌を閉じ先程と同じ一つ開けたカウンターの椅子に座った。
マリンが食後の珈琲を飲み終わり、会計を済ませ店の扉の前でチラリと品田を見ると、彼はやはり人懐こい笑顔で小さく手を振る。彼女はそれには応えずに「ごちそうさま」と言い店を出て行った。
「彼女、よく来るの?」
熱々のカキフライを頬張りながら、品田はなつみに問いかける。
「え?ええ、たまにね。あいつ等が来るようになってからはあまり来なくなってたけど……。どうして?」
「ん?いや、綺麗な人だなあって思ったからさ」
「……品田さん。ああいう女性がタイプなの?」
なつみが恐る恐る訊くと、彼はさも当たり前という顔をする。
「美人を嫌いな男なんて居ないさ。……あ、美味いねこれ」
コーンスープをすすりながら、ニンマリと笑う品田に「食後は珈琲でいいよね?」と力無く言うと、なつみは厨房に移動した。
────そっか、ああいう人が好きなんだ。
肩を落し、盛大な溜め息を吐きながら珈琲豆の入っている缶へ手を伸ばした。
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