「男と……付き合った事が無い?って……それってつまり……」

春樹の言葉に品田は暫し唖然としていたが、「そっか……」とボソリと呟くと、のそのそとベッドから這い出た。




「ごちそう様でした」

両手を合わせて頭を下げる品田の前に、春樹が淹れたての珈琲を置いた。

始終品田とは会話をしようとしなかったなつみは、無言で食器を下げ始める。まだ怒っているようだ。

「あの……なつみちゃん?」

品田が恐る恐る顔を覗き込んでみる。

「俺、寝てる時君に何かしちゃった?ごめんね」

申し訳なさそうに、上目遣いで見つめられると、先程の記憶がなつみの中で蘇る。

「べっ別に……何もされてないからっ!!」

なつみは突然耳まで真っ赤になり、ガチャガチャと食器を急いでまとめると、厨房へと引っ込んで行った。

「姉ちゃんに何したの?」

その様子を見ていた春樹が、自分の珈琲をテーブルに置いて、訝しげな視線を品田に向ける。

「いやぁ……それが分かんないんだよねぇ……」

困ったように頭を掻く品田に、春樹は呆れて溜め息をついた。

「あ、そうだ。今日俺学校の帰りにちょっと寄ってくとこあるから遅くなる。それまで店と姉ちゃん頼むよ」

「え?うん、いいけど……。何処に行くの?あ、もしかして彼女?」

品田がニヤッと笑うと、「そ、そんなんじゃねぇよっ」と慌てて首を振った。

「アルバイトの面接。いい感じの和食屋が募集してたんだ」

「へぇ、バイト?」

「俺……」

春樹は珈琲カップに視線を落す。

「ほんとは姉ちゃんにキャバクラなんかで働いて欲しく無いんだ。俺も学校やめて働くっつっても、“あんたはしっかり学業に専念しなさい”って聞いてくれないしさ……」

「そっか。……でも俺も、高校だけはちゃんと卒業しておいた方がいいと思うな」

「……うん。だから、せめてバイトだけでもって……。そしたら“子供は余計な心配するな”って、それも許してくれないんだ」

「そうなんだ……」

彼女は、全部一人で背負い込もうとしているのか……。そう考えると、品田は胸の奥から何か込み上げて来るのを感じた。

「だから、面接受かるまで姉ちゃんには内緒にしといて?」

春樹は、自分の顔の前で手を合わせて頭を下げた。

「OK、わかった。でも、受かったらちゃんと言うんだよ。その時は、俺も一緒に説得するから」

その台詞に春樹は、ぱっと顔を輝かせた。

「マジで!?そん時は頼むよ!……あ、ヤベ。そろそろ行かなきゃ」

バッグを背負い「行ってきます」そう言うと扉を開けて出て行った。

「……受かるといいな、面接」

春樹が出て行った後の扉に、品田はそう小さく呟いた。

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