「遅いな春樹……」

なつみが夕食の準備をしながら、時計を見てポツリと言うと「デートか何かじゃないかな」とカウンターに座る品田が雑誌を眺めながら言った。


朝、品田の部屋であんな事があってから、なつみは彼の顔をまともに見れなくなっていた。彼は、なつみが怒っていると勘違いをしているみたいだが……。

品田と二人きりは正直気まずい。普通に対応しようとすればするほど、変に意識してしまい、つい口調がきつくなってしまう。


その時だった。

カランとベルが鳴り、扉が開いた。

「あ、お帰り……」

やっと春樹が帰って来たと思いそちらに目をやる。……が、入って来たのは意外な人物だった。

「あれ?……マリンちゃん」

いつの間になつみを聞いたのか、品田も驚いて立ち上がった。

彼女は怯えた表情で品田に近寄る。

「ごめんなさい、いきなり……。さっきから誰かに付けられてて……暫くここに居させて下さい」

「付けられてた?」

彼女はコクリと頷くと、怖々扉を振り返った。

品田はマリンを背中に匿うように彼女の前に立つ。そんな品田の腕に両手を添え、その背中から覗き込むように扉を見た。

「…………」

そんな二人の姿に、なつみの心は妙なざわめきを覚える。そんな場合じゃないのに、小さな嫉妬心が胃の辺りに重く圧し掛かった。


品田は無言で、“ここに居るように”とマリンを手で制すとドアノブにそっと手を伸ばす。そして、思い切り開けた。


「っ!?」

その先には、男が立っていた。
突然扉が開いたので男は驚いた様子だったが、直ぐにその場から逃げようとするも、品田に腕を掴まれて、背中に捻りあげられ悲痛な叫びを上げた。

「いっ痛たたたっ!!」

「女の子を付け回すなんて、いい大人がする事じゃ無いなあ」

男が暴れるので、首に腕を回し羽交い絞めにしながら、品田が呆れたように言った。その男の姿を見て、マリンは唖然と立ち尽くす。

「あなた……」

「よう……。へへ、久しぶりだなあ」

「え?あれっ、知り合い?」

キョトンとする品田に、彼女は不快感を露わにしつつ、男を見た。

「河村宗一郎……。私が取材を受けなくなった切っ掛けを作った男よ」

「…………」

「えぇっ!!この人が?」

驚いた品田が腕の力を緩めた隙に、男はそれを振りほどいた。

「はぁ……痛てて。まったく馬鹿力め」

軽く悪態をついた後、河村はマリンを見た。ビクリと身体を震わせた彼女を、品田は再び背中で庇う。

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