「え?何なに?何があったの?」

河村が立ち去った直後、帰ってきた春樹が店の外に立っている三人を不思議そうに見た。


「取り敢えず、中に入りましょう。マリンさんも……温かい珈琲淹れますね」

なつみは二人を店内に入るよう促す。
店の中に入っていく品田と、その後をついて行くマリンの背中を複雑な表情で見送ると、状況が飲み込めず頭上にはてなマークを飛ばしている春樹に「手伝って」と言い、自分もその後へ続いた。




「あの綺麗な人、たまにうちに来るお客さんだよね?何かあったの?」

カウンターの中に入ると、春樹は小声で訊いて来る。

「……説明は後でちゃんとするから、あんたは珈琲淹れたら2階に上がってなさい」

「えー!?俺だけ除け者かよ」

「いいから」

春樹はブツブツ言いながらも、手際よく豆を引いてくれた。


奥のテーブル席で品田とマリンが何かを話している様子だが、ここまではその声は届かない。それにちょっとイラついている自分に気付いていた。





「あ、ありがとう。ごめんなさいね、巻き込んでしまって……」

「……いえ、気にしないで下さい」

ユラユラと湯気がのぼる淹れたての珈琲を両手で持つと、マリンはホウ……と深く息を吐いた。


「品田さんも、ありがとう。ふふっ、何だか凄く頼もしかった」

「いやぁ、俺はたいした事してないよ」

そう言うと、品田は照れたように頭を掻いた。

「最近、誰かに監視されてる感じがしてたんだけど……あの男だったのね……。もう何年も姿を見てなかったから油断してた」

「これからも付き纏われるようだったら、警察に相談してみた方がいいかも知れないですよ」

なつみが言うと、マリンは顔を曇らせる。

「そう……ね。前も警察には行ったんだけど……今回もどこまで動いてくれるか……」

その口調から、警察はあてにならないという雰囲気を感じ取れた。

「俺の名刺渡してあるよね?何かあったら、それ見て電話してよ」

「……え、でも。これ以上迷惑は……」

「迷惑なんて思わないから。むしろ、君みたいな綺麗な女の子の役に立てるなんて、光栄なくらいだよ」

言うと、品田は急に真面目な顔になり、「すぐ駆けつけるから」と付け加えた。

「ほんと?ありがとう、じゃあ甘えちゃおうかな」

マリンの言葉に、品田は嬉しそうにウンウンと頷く。そんな彼の様子をなつみは沈んだ気持ちで見ていた。

「それじゃあ、そろそろ行くね。なつみちゃん、珈琲ごちそう様」

「いえ、……またランチ食べに来て下さいね」

「勿論。私ここの大ファンですもの」

ニッコリ笑ってマリンが立ち上がると、品田もおもむろに腰を上げる。

「送るよ」

「あ……うん。じゃあタクシー乗り場までお願い」

「じゃ、なつみちゃん。ちょっと行って来るね」

「……気を付けて」





二人が出て行った後、三人分の珈琲カップを洗いながらも、なつみの頭はひとつの事で一杯だった。

それは、品田のマリンに対する対応だ。

ちょっと優しすぎないか?品田は彼女に気があるのだろうか……。
いや、彼は結構誰にでも優しい。きっと考え過ぎだ。

そんな事が、頭の中をぐるぐると駆けまわる。

もし、仮に品田にその気があったとしても、彼女が相手にする訳が無い。無理やり自分にそう言い聞かせて、安心しようとした。が、このモヤモヤは簡単に消えそうにも無かった。

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