「あ……っと、私そろそろ行かないと。じゃ、品田さん、日にち決まったら連絡するね」
「それじゃ」と、彼女はササッとバッグを肩にかけると店を出て行った。
「……デートかあ」
ポツリと呟きながら腕を組む品田は、何か考えているようだったが、その顔は明らかに嬉しそうだ。
やっと取材が出来るかも知れないからなのか、綺麗な女性とデートが出来るからなのか……。いや、もしかしたらその両方かも知れない。
「なつみちゃん、この辺りで人気のデートスポット知らない?あ、なるべくお金かからないとこ」
人の気持ちも知らないで呑気に訊いてくる品田に、なつみは「知らない」と素っ気なく返すと、自分が食べた分の食器だけ持って厨房へと移動した。
これ以上、品田と同じ空間に居るのが、いたたまれなかった。
あの二人が近々デートをする……。それでマリンからOKが出れば、品田は彼女の取材が出来る。
品田が名古屋に帰ってしまう。
いつまでもここに居るとは思ってなかったが、漠然とまだ先の事だろうと考えていた。
洗い物をしながら、そこまで頭を巡らせて、ふと手を止めた。そして、品田が書いた記事の内容を思い出す。
マリンを取材するという事は、つまり品田が彼女にそういうサービスを受けるという事だ。
例の記事に書いてあったプレイ内容が、二人の姿で頭の中で再生され、慌てて追い出そうとした。
「あれ?どうしたの?」
そこへ、品田が食器を持って厨房へと入ってきた。そして、なつみの顔を心配そうに覗き込んだ。
「顔が赤いよ?熱があるんじゃない?」
「えっ!?」
「さっきから何か様子がおかしかったけど……。風邪引いたんじゃないの?今日は、キャバクラは休んだ方がいいよ?」
品田の手が、なつみの額に伸びて来たので思わず後ろに後ずさる。
「だっ……大丈夫っ!!平気だからっ!……あ、そろそろ準備しないとっ。じゃ、品田さん後宜しくね」
そう言うと、その場から逃げるように二階へと上がった。
着替えようと、自室の鏡の前に立つと赤面状態の自分の顔が映っていた。
「あー……もう、最悪……」
そんな自分の姿を見たら、急に情けなくなりなつみの口からは大きなため息が漏れた。
その日は客にアフターに誘われ、気分は乗らなかったが、次の指名に繋がればと仕方なく付き合う事にした。
帰ってきたのは午前五時半、いつもはリンクスもあるので三時には家に着いているのが理想だが、夜の仕事をしているとたまにこんな日もある。
九時にセットしていたアラームで目覚める。
目を擦ると、指に違和感を感じふと指先を見た。そこには、昨夜品田に貼ってもらった絆創膏が剥がれかかっていた。
もう、傷もそんなに痛まないし、捨ててしまおうかと考えた末、元の位置に戻し、取れないようにギュッと押し付けてみた。
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