「あ、姉ちゃん。おはよう」
「あれ?春樹、学校は」
「何だよ、寝ぼけてんのか?今日は土曜だよ」
そうか、今日は春樹は休みだったか。それなら、あと三十分寝ていれば良かったなとまだ覚醒しない頭で考えながらテーブルに着く。
「おはよう、なつみちゃん。こんな時間に起きるなんて珍しいね」
「おはよう……」
春樹は既に朝食を済ませたようで、テーブルには二人分の朝食が用意されており、対面の席では品田が寝癖もそのままでのんびり茶碗蒸しを堪能していた。
「姉ちゃん……」
品田の隣で食後の珈琲を飲む春樹が、いつになく真面目な顔で話しはじめた。
「俺、バイトする事にしたから」
「え?バイト?」
なつみは箸を止め、驚いた顔で春樹を見る。
「うん。神室町の日本食屋の面接受かったからさ。これで、姉ちゃんはキャバクラ行かなくて済むだろ?」
「……アルバイトは許さないって、前に言ったよね?」
厳しい口調で言ったが、春樹も引かない。
「もう、俺嫌なんだよ。いつも帰って来んの二時三時じゃん。今日だって朝方だっただろ?身体もたねぇってっ!!」
「前も言ったでしょ?あんたは余計な事考えなくていいの。そんな時間があるなら勉強の方頑張りなさい」
「……余計な事って何だよっ!!姉ちゃんの心配しちゃいけねぇのかよっ!!」
「…………」
春樹はガタッと立ち上がる。両手はグッと握られていた。
「家族なんだぞ、俺達……」
絞るような声で、そう言うと春樹は大きな足音を立てて二階へと上がって行った。バタンッとドアを閉める音がした後、それまで箸を止めていたなつみは再び黙々と食べ始めた。
そんな二人の様子を、茶碗蒸し片手に黙って見ていた品田だったが、「俺が口を出す事じゃ無いかも知れないけどさ」と口を開く。
「なつみちゃん、全部ひとりで背負い込む気でいるの?俺が春樹君だったら、頼って貰えないのは寂しいと思うけどな」
品田の言葉には何も答えず、なつみは変わらず食べ続けている。何か思いつめた表情だ。
「……あの子、結構成績良いのよ……」
食べ終えたなつみがポツリと話しはじめた。
「春樹には、ちゃんと大学に行って堅実な道を歩んでもらいたい。その為の費用も少しづつだけど貯めてるし」
品田は黙って聞いている。
「借金の返済も、利息を返すのに今は一杯いっぱいだし、この店ももしかしたら手放さなきゃならなくなるかも知れない……。“和食のお店をやりたい”って言ってるけど、成功するとも限らない……だから……」
自分の事はどうでもいい。だが、春樹は真っ当な人生を歩ませてあげなければ、亡き両親にあわせる顔が無い。
「家の手伝いしてもらってるだけで充分なの。今は、勉強に集中して欲しいから」
「ごちそう様」と言うと、重ねた食器を持って厨房へと移動した。
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