お互いを想いあっての衝突。こんな喧嘩、自分はした事があったろうか……。



「……さん?品田さんっ!!」

物思いに耽っている品田は、自分を呼ぶ声で我に返る。途端に周りの雑音も戻ってきた。

「どうしたの?さっきからボーっとして」

レモンティーをストローでカラカラと回しながら、目の前で可愛らしくマリンが首を傾げた。









「品田さん、例のデートの件。今日とかどう?」

なつみと春樹のやり取りの後、品田の携帯に着信があり、出てみると、マリンからデートの誘いだった。

特に予定も無かった品田は二つ返事で承諾して今に至る。





「折角私と居るのに、何だか上の空ね」

「あ、ああ……ごめん……」

「デートの相手が私じゃ不服なのかな?」

テーブルに頬杖をつき、悪戯っぽく笑う彼女はとてもチャーミングに見える。

「いやいや、とんでもないよ。君みたいな魅力的な女の子と一緒に居られるなんて夢みたいだよ」

「もう、調子いいんだから」

クスクスと笑うマリンは、スキニーパンツを履いたスラリとした形のいい脚を組み直した。


喫茶アルプス。

身体を動かしたいというので、二人でボーリングをした後、喉が渇いたので昼ご飯も兼ねて休憩しようとこの店に入った。

店内の男性客の視線を嫌でも感じる。それは、彼女に集中していた。こんないい女と一緒に居る事への、羨望の眼差し。男として悪い気分はしない。


「もしかして、上の空の原因はなつみちゃん……じゃない?」

ココアを飲みかけていた品田は、ゲホゲホと咽る。

「え?何で分かったのっ!?」

「……呆れた。図星なの?」

どうやら、カマをかけただけのようだ。やられたと思った品田は、肩を落し「ごめん」と謝った。

「……私程の女を目の前にして、他の女の事で頭が一杯なんて。初めてよ、こんな事」

「いや、実はさ……」

品田は、今朝の出来事をマリンに話した。

「どちらの言い分も分かるんだよね。何とかしてあげたいって思う反面、お互いを想って喧嘩出来る仲って、ちょっと羨ましいな……なんて」

「成程ね。そんな事を考えながら、今日一日私と居たんだ」


そう言って、腕を組む彼女の顔は、台詞に反して何故か嬉しそうだ。

「品田さんさ……」

マリンは品田の顔を覗き込むように見つめた。

「ちょっと、名古屋に帰りたくないなんて思ってない?」

「え?」

キョトンとする品田の顔を見る彼女の目は、まるでその心の内を見透かしているかのようだった。

「……そ、そんな訳無いじゃん」

そう言う品田の目は、明らかに動揺していた。

確かに、三食しっかりと飯が食えて、夜には洗濯物が綺麗に畳まれて……そんな理想の生活は、独身その日暮らしの品田にとってかなり居心地の良いものだった。

しかし、そうは言っても、本来の自分の居場所は名古屋だ。こんな駄目な男にも優しく接してくれる人々が居る錦栄町だ。

「早く帰りたいからこそ、こうやって君とデートして取材にありつこうとしてるんだからさ」

そう言いながらも、いざ帰る事を考えるとフワリと湧き上がる、何とも言えない寂しさは何なのだろうか。

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