今日は朝からあまり客足が伸びない。
品田はマリンから電話があったらしく、いそいそと出かけて行った。多分例のデートだろう。今頃、ふたりで楽しい時間を過ごしているに違いない。
「はぁー……」
先程から溜め息ばかり吐いているなつみは、今日一番の溜め息を漏らした。
────これを切っ掛けに、二人が付き合い始めたらどうしよう。
────付き合うまで行かなくても、あんな素敵な女性と一日過ごしたら、品田が彼女に惚れてしまうかも知れない。
時計は既に午後1時を指している。今頃昼ご飯でも食べているのだろうか。
今朝の春樹とのやり取りもあり、心が晴れない。
モヤモヤを吹き飛ばそうと、両手で頬をパンッと挟むように叩いた。
────カラン。
その時、ドアのベルを鳴らし誰かが店に入って来た。
「いらっしゃ……」
ドアに向かって、無理やり笑顔を作ったなつみは、そこに居る人物を見てさっと顔色を変えた。
「よう、一昨日はどうも」
「あなたは……」
そこには、ニヤニヤと笑う河村宗一郎が立っていた。
河村は、警戒して身構えるなつみに構わず、ズカズカと店内に入って来る。
「な、何の用ですか?マリンさんなら今日は居ませんよ?」
店には自分一人。あまり歓迎出来ない人物の登場に、思わず後ろへ後ずさる。
「うん、知ってるよぉ。この前のデカい男と一緒に楽しそうに劇場前を歩いてるとこ見かけたからねぇ」
ねっとりとした声で言うと、カウンターの椅子を引きドカッと座る。
「今日はあんたに用があって来たんだよ」
なつみはゴクリと唾を飲んだ。
「私に何の用ですか?」
「あんた、結構借金抱えてるんだってね?」
どこからそんな情報を仕入れて来たのか、河村は更に続ける。
「キャバクラじゃあ稼げてもたかが知れてるでしょ?どうかな、風俗で働くってのは」
「ふ……風俗?」
嫌でも声が震えてしまう。適当に相手をして、早く帰って貰おう。
「多分、普通に今の三、四倍は稼げると思うよ?その気があるなら、つては沢山あるからいい店紹介するよ?」
「け……結構です!!すいませんけど、帰って貰えますか?」
風俗で働く事も何度か考えた。借金を返して行くことを考えれば、確かに効率はいいだろう。
だけど、男性経験の無い自分が果たしてそんな仕事が務まるのだろうか。それに、春樹の事を考えると軽率に風俗という選択肢は選べなかった。
姉が風俗で働くよりは、キャバクラの方がまだマシだろう。
そんな事に頭を巡らせていると、河村は目をスッと細めた。
「あんた……」
椅子から立ち上がった男の足がジリ……となつみに近付く。
「な、何?」
思わずなつみは後ずさりをする。
「まさか、処女……とか言わないよな?」
「なっ……!!」
唐突な質問に、顔を真っ赤にして言葉に詰まるなつみの様子を見て、河村はニヤリと口元を歪ませた。
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