その顔がどんどん血で紅く染まるのを見て、なつみはたまらず叫んだ。

「やめて、品田さんっ!!死んじゃうっ!!」

もちろん、河村を心配して言ったわけでは無い。

こんな男の為に、品田に“人殺し”という汚名を着させたくはなかったからだ。

だが、品田はその手を止めない。

「品田さんっ!!駄目っ!!」

なつみが叫びながら品田の大きな背中に抱きついた時に、彼はやっとその手を止めた。

背中に当たる頬に、品田の荒い息遣いが伝わってきた。

品田の動きが止まった為、河村は小さな悲鳴を上げながらその場から逃げ出したが、品田はそれを追うことも無く静止したまま息を整えている。





「……あんなやつ、殺してしまっても良かったのに」

小さく絞り出すような声で言う。

「そんな事したら、品田さん……警察に捕まっちゃうじゃない」

背中から聞こえて来るのは、嗚咽混じりの震える声。



品田は初めてなつみと会った雪の日の事を思い出す。

この人に見つけられずにいたら、もしかしたら自分はあのまま……と。

リンクスに来てからも、何度も思っていた事。

「構わないよ。君は俺の命の恩人なんだから」

だからこそ自分が許せなかった。浮かれてデートなんて……。危うく、彼女に一生消えない傷を負わせるところだった。

この人から、離れるべきじゃ無かった。

大袈裟だなあと、自分の背中で涙声で笑うこの人を。

自分が外出する時に、いつも“いってらしゃい”と不安そうに見送っていたこの人を。


護りたいと思った。






その日の夜、なつみは高熱を出して寝込んでしまった。

品田はずっとなつみの寝ているベッドの傍に座っていたらしい。

夕飯に呼んでもそこから動こうとせず、「まるで主人を護る忠犬みたいだった」と後になって春樹が苦笑いをしながら語っていた。



その日以来、品田は外出をしなくなった。夜、なつみがキャバクラに出勤する時も店まで送り帰る時間には外で待っている。

真冬の空の下、鼻をすすりながら店から少し離れた所に佇んでいる品田を見かねて、風邪をひくから迎えは要らないと言っても、頑としてやめてくれない。

それを見ていたキャバクラの仲間達に、“忠犬ハチ公”のようだとからかわれるまでに時間はかからなかった。



「品田さん」

その日も“ハチ公”は店の外で待っていた。二人でいつもの道をいつもの距離感で歩く。

斜め後ろを歩いている品田は、なつみの呼びかけに「ん?」と答えた。

「最近外出してないみたいだけど、仕事は大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ。めぼしい女の子の取材はあらかた終わってるからね。後はデータ送るだけ」

「……マリンさん以外の女の子は……でしょ?どうだったの?この前のデート、楽しかった?」

前々から気になっていた事を、さりげなく聞いてみた。

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