「うーん、まあね。ああいう子と一緒に居ると、なんて言うの?周りの男の羨望の眼差しっていうの?凄かったなあ」
「はいはい、そうでしょうとも。で、取材はさせてくれそう?」
「……それが、さ。俺、途中で帰っちゃたでしょ。あれから連絡無いんだよね。怒らせちゃったかも」
そこまで聞いて、なつみはパタリと立ち止まる。後ろを歩いていた品田が追い越す形になり、彼も立ち止まると不思議そうに肩越しに振り返った。
「どうしたの?」
「それって、私のせい……だよね?」
あの時、なつみのワンコールの着信に、嫌な予感がしてリンクスに帰ったと品田は言っていた。
「ごめん……」
申し訳なさそうに謝るなつみに、品田は慌てて両手を小さく振りながらなつみに向き合った。
「なつみちゃんは悪くないよ。いや、むしろ電話をくれて良かったと思ってるんだから」
「品田さん……」
「あの時、君からの着信が無かったら、俺は一生後悔して生きるところだった」
いつもとは違う、真剣な顔。
格好良く見えてしまうのは、所謂“恋は盲目”というやつだろうか。まさか、自分が一回り以上も年上の、自分らで言う“おっさん”にキュンとする日が来るとは思っていなかった。
「…………」
思わず品田に抱きついてしまいたい衝動に駆られる。
そんな最中、品田は盛大なくしゃみをした。
全く、締まらない男だ。
情けない顔で鼻をズビッとすする品田に、なつみは自分のマフラーを外してその首に巻き付けると「帰ろう」と言って笑った。
「おはよう、飯は自分でよそって」
春樹が味噌汁の碗をテーブルに置きながら言う。
「おはよう。……品田さんは?」
「そろそろ起きて来るんじゃない?」
いつもと変わらない朝。なつみはついでに品田の分のご飯も茶碗に盛る。
「俺、今日バイトだから遅くなるよ」
「はいはい」
春樹のバイトは、学業に影響が出ない程度に出勤するという事で許す事にした。
でも、さすがにキャバクラを辞める程の収入にはならない。そこで、なつみは出勤日数を減らすという形で、取り敢えずこの話は終結した。
河村の件は春樹には話していない。自分の姉が襲われたなんて、高校生にはショックも大きいだろうからと品田も同意した。
二人分のご飯茶碗をテーブルに置いた時、品田がのそのそと階段を下りてくる。錦栄町に居る時は昼ごろまで寝ていたと言っていたが、ここに来てからは朝食には必ず起きて来ている。
これも、春樹の料理の腕のおかげなのかも知れない。
「あ、品田さん」
目の前でいただきますと手を合わせる品田に話しかけると、彼は合わせた両手からヒョイとこちらを覗いた。
「今日はアフターの約束があるから、迎えには来なくていいよ」
「え?別にいいよ。待ってるから」
待ってると言われても、アフターにこんな大男について来られるのはさすがにまずい。
「何時になるか分からないから。今日は家に居て、お願いだから」
「……うん、わかった」
納得していない顔ではあるが、渋々頷いてくれた。
例の客とは寿司吟で待ち合わせをした。
店から出るともしかしたらと周りを見渡す。だが、いつも寒そうに首をすくめながら待っている彼の姿は無かった。ホッとしながらも、何となく寂しく思いつつ寿司屋へ向かう事にした。
久し振りに食べた寿司は美味しかった。
春樹と品田にも食べさせたいと考えてしまう自分に苦笑いする。
「はい、ハヅキちゃんも飲んで」
ハヅキとは、キャバクラでのなつみの源氏名だ。
隣で酒を勧めてくる男は、なつみが入店当初から指名で来てくれている。同伴にも快くOKしてくれ、金もそれなりに落としてくれるので、アフターに誘われたら付き合う事にしていた。
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