ここに来る前に立ち寄った地上げ屋の男を片手で引きずりながら、金崎組事務所のドアノブに手をかけた。

鍵はかかっておらず、難なくドアは開く。中に居た数人の男が、一斉にこちらを見た。

「何だテメェはっ!!」

品田は無言のまま、引きずって来た男を事務所内へ放り投げた。
若干顔の形が変わってしまったその男は、気を失っているのか血だらけでそのまま床に転がる。

それを見た男達は、険しい顔で立ち上がった。

「あんたら、リンクスって店知ってる?」

品田の言葉に、その中の何人かが把握したように口元を緩ませた。

「何?あんたあの店の関係者?大人しく金……」

そこまで言うと、倒れている男をちらりと見て品田を睨んだ。

「返しに来たって訳でも無さそうだなぁ」

「お前らのせいで店がめちゃくちゃだ。どうしてくれるんだ?」

怒りをかみ殺したように品田が言うと、男はヘラヘラしながら鼻で笑った。

「なぁに言っちゃってんの?返さなきゃいけないもの返さないでさあ。文句言えた立場な訳?」

「おかしいだろ。金返して欲しいんだったら、その収入源の店を何で襲ったんだ?」

「あのさぁ、あんな小さい小汚い店でちまちま、ちまちま返したって仕方ないでしょ?あの店と土地売りゃ一発なんだよ?俺らはその手助けしてあげただけ……」

「ふざけんなっ!!!!」

品田の怒声が男の台詞を遮る。

「あの子達が……どれだけの思いで……」

怒りで震える声でそこまで言うと、品田は言葉を飲み込む。

「いや、あんたらみたいな奴に言っても無駄か……俺は別に話し合いに来た訳じゃない」

「あぁ?」と凄む男を、品田は鋭く睨み返し拳を固く握り込んだ。


「ここをぶっ潰しに来たんだ」








頭が正常に働いてくれない。店の現状を考えると、早く片付けて営業出来るまでにしないといけないのに……。


返しても返しても無くならない借金。
どんなに頑張っても、こんな嫌がらせを繰り返されたのでは益々借金が膨らむだけだ。

まるで終わりの見えないマラソンを走らされている気分だ。


……もう沢山だ。
……もう疲れた。


いっそ、この店を手放してしまって楽になろうか……。

そんな事をぼんやりと考えている時だった。



「姉ちゃんっ」

下の階から春樹の呼ぶ声がした。
放っておいて欲しくて、聞こえなかった事にする。すると、先ほどよりも切羽詰まった春樹の声が聞こえてきた。

「姉ちゃんっ!!大変だっ品田さんがっ!!」


それまで横になっていたなつみががばりと起き上がる。

急いで階段をかけ下りると、入口付近に血塗れの大きな身体が横たわっていた。

「し、品田……さん?」

胸で大きく息をしていた品田が、うっすらと目を開けた。そして口元に笑みを浮かべる。

「この店の仇……とってきたよ」

彼は、端が切れて血の滲んだ口でへへっと小さく笑うと、そのまま意識を手放した。

「品田さん?え?……嘘でしょ?死んじゃやだっ!!品田さんっっ!!」

「姉ちゃんっしっかりしろっ!!大丈夫!!今救急車呼んだからっ」

「品田さんっ!!品田さんっ!!」

よく見ると、左太腿の辺りの出血が激しい。ジーンズが真っ赤に染まっていた。

こんな時、どうすればいいのか分からない。
好きな人が、大切な人が血だらけで倒れているのに自分は何も出来ない。

あまり動かさない方がいいような気がして、なつみは溢れる涙を拭くこともせずに、ずっと彼のなつみを呼び続けていた。


遠くで、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

next
index
top