「何だ君は?」

いきなり現れた背の高い男に、二人の刑事は強い口調で問う。

後ろ姿で顔は見えないが、髪の毛をオールバックに撫でつけた男の身なりは、かなり良さそうに見えた。

男は、「ちょっと」と刑事をなつみから遠ざけ、何やら小声で話すと、刑事たちが驚いた顔をする。何か緊迫した空気を感じた。

そして、何やら会話を交わした後、刑事達は男となつみに会釈し、そのまま去って行った。



何が起こっているのか分からず、唖然としていると男がこちらを見てゆっくりと近づいて来た。

歳は三十代半ばくらいだろうか?高級そうなスーツを身に着け、落ち着いた雰囲気の男だが、その眼光はどこか鋭く、そのせいか少し怖そうにも見える。
品田程ではないが、筋肉質な身体はスーツの上からでも分かるくらいだった。

「大丈夫。もう君達のところには警察は来ない」

低く静かで、落ち着いた声。

「あ、あの……あなたは一体……?」


なつみの質問に、彼は少し視線を泳がせると、困ったように微笑む。

「辰雄の親友だ。少なくとも、俺はそう思ってる」




ドアを開けると、横になって雑誌を読んでいた品田がこちらを見た。

「あ、なつみちゃん。お昼だけじゃ足りなくてさ、お腹ペコペコ……あれ?堂島君っ!?」

なつみの後ろから姿を現した男を見た途端、パッと顔を輝かせた。
起き上がろうとしたが、痛みで顔を顰めた品田に堂島と呼ばれた男は「いいから寝てろ」とそれを止めた。

「あはは、ごめんね。ああ、なつみちゃん、紹介するよ。堂島大吾君。俺の友達で神室西高の同級生だよ」

「えっ!?」

驚いて堂島を見上げる。彼は小さく「よろしく」と言った。

「品田さん、神室町出身だったの!?」

「え?あれ?言ってなかったっけ?」

知らなかった。てっきり名古屋出身だとばかり思っていた。

「相変わらずみたいだな、お前は」

堂島は呆れた様子で言うと、パイプ椅子に腰を掛ける。

「お前から電話が来た時は正直冗談かと思った。堅気のお前が一人で乗り込むなんてな……」

それまで明るかった品田が、急に真顔になる。

「……どうしても、許せなかったんだ。あの店は、俺にとっても大事な場所になってたから」

そんな品田に堂島は、フッと笑う。

「お陰で、俺の仕事が増えた」

「ごめん……」

堂島は、「いや……」と言うと横に立つなつみを見上げた。

「大体の事はこいつから聞いた。今回の件はすまなかった。店の修復はこちらが責任をもってやらせてもらう。あと……借金の事なんだが、俺が肩代わりさせてもらうよ。これまでの取り過ぎた利子を引いた元金だけ払ってくれればいい。勿論これからの利子も不要だ」

状況がいまいちよく呑み込めない。なぜこの人がこんな事を言うのか。そんななつみの胸中を察したのか、堂島は言いにくそうに口を開いた。

「君達の店に嫌がらせをしていたのは、今回こいつが単独で乗り込んだ金崎組。……東城会の三次団体だ。俺は……その東城会の六代目なんだよ」

なつみの口がポカンと開く。

神室町に生きる人間で“東城会”のなつみを知らない者は多分いない。関東で最大と言われているヤクザの組織だ。

そんな日本でも有名な巨大組織のトップが、品田と同級生。しかも、彼は品田の事を“親友”だと言っていた。

「あの辺の地価が上がるという噂だがな、ガセだった。……いや、再開発の計画自体はあったんだが、何かの理由で頓挫したらしい。それをよく調べもしないで噂に踊らされた金崎が、一人歩きした結果がこれだ。もっと早くこちらが把握していたら、こんな事態にはなっていなかった。……しかもそれが、辰雄の大事な人の店だったなんて……。本当にすまなかった」

“大事な人”のフレーズにドキドキしつつそれを否定しない品田に嬉しく思いながら、小さく頭を下げる堂島に恐縮しながら両手を上げた。

「そんな、頭を上げて下さい」

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