「それはそうと、なつみちゃん……」

「え?」

真面目な顔で品田に名を呼ばれたので、なつみは今度は何事かと身構える。

「……さっきから凄くいい匂いがしてるんだけど」

そう言うと、なつみが手に提げている紙袋を指さす。

「いっぱい流血したから、病院食だけじゃ俺、貧血で倒れそう……」

お腹をさすって情けない顔をする品田に、先程までの緊張感が緩み、思わず吹き出す。

「あ、そうだったね。ちゃんと作って来たよ」

そう言って、なつみが何か取り出そうとしている紙袋を、品田は期待に満ちた目で見つめた。

「うわ、カツサンドだ!!いただきます!!」

言い終わる前に、品田の手が伸びていた。

「お口に合うか分からないけど、堂島さんもよかったらどうぞ。私、お茶淹れて来る」

そう言うとなつみはパタパタと病室を出て行った。
品田は、カツサンドを頬張りながら堂島にもそれを勧めた。

「これで良かったか?」

堂島にそう訊かれた品田は、暫く口をモグモグさせていたが、やがてゴクンと飲み込む。

「俺が堂島君に頼んだのは、あの店への嫌がらせを止めさせる事と、借金の法外な利子をなんとかして欲しいって事だったんだけど……」

「気にしなくていい。俺がしたくてするんだ」

「……ホントはさ、俺ひとりで何とかしたかったんだけど」

急に沈んだ声になり、手に持つ食べかけのサンドイッチを見つめた。

「やっぱ駄目だった。俺なりにあの二人の為に何かしてあげたかったのに……。結局、堂島君に頼っちゃった……」

「辰雄……お前」

堂島は拳を握ると、うなだれている品田の肩を軽く小突く。

「いっ……た!!痛いよ堂島君!!」

まだ癒えていない傷をピンポイントで突かれたらしく、品田は痛そうに顔をしかめた。

「死んでもいい覚悟で金崎組に乗り込んだんじゃないのか?」

少し怖い顔の堂島がそう問うと、品田は少し考た後俯いて首を振った。

「そんなかっこいいもんじゃないよ。あの時は、俺はどうなってもいいから俺が出来る事しなきゃって……それしか頭に無かった」

「誰にでも出来る事じゃない」

「……堂島君?」

顔を上げ品田が堂島を見ると、彼は微かに笑っていた。

「人の為に命はれるなんて、誰にでも出来る事じゃない。俺は、お前のその“覚悟”、友人として誇りに思うよ」

「…………」

親友の言葉に、品田は照れたように頬を掻いた。


「美味そうだな。ひとつ貰おう」

そう言って堂島もカツサンドを手に取る。分厚く切られたカツが挟まるそれは、出来てすぐ持って来たのだろう。まだほんのり温かかった。

「成程な。胃袋を掴まれたってやつか」

「え?」

「なつみさん……だっけ?」

堂島は食べかけのカツサンドを、品田に見せるように自分の顔の高さまで上げて、口角の片側だけで笑う。

「お前にそんな“覚悟”をさせた彼女は、それだけ大事な人だという事か」

品田は堂島の言葉の意味を、一瞬考えた顔をした。「付き合ってるんだろう?」と問われ、慌てて首を振る。

「ち、違うよっ!!彼女とはそんな関係じゃないからっ!!」

そう否定した後、品田はまた少し考える。

「ああ、いや。大事な人ってとこは……違わないかも。確かに、彼女には安心して、笑顔で日常を過ごして欲しかったから」

品田の声が急に沈み込む。

「でも、結局泣かせちゃった」

今朝、目が覚めた時。傍に居てくれたなつみの目がもの凄く腫れていたのを思い出していた。どれだけ泣けばあんなになってしまうんだろう……。

next
index
top