「……ちゃん。姉ちゃんっ!!」

ボーッとしながらご飯を箸で口に運んでいたが、春樹の声で我に返る。

「何だよぼんやりして、今日変だぞ。何かあった?」

「え?……いや、何でもないよ。ごちそう様……お風呂入って来るね」

半分程しか箸をつけていない食器を、厨房まで持って行く。




明日からどうしよう……。

湯船に浸かりながら、そんな事を考える。
正直行きたくない。どんな顔で会えばいいのか分からない。

────でも、明日もきっとお腹空をかせて自分を待ってるかも知れない……。

乳白色に揺れる水面を見ていると、またあの光景が頭に浮かぶ。もう何度目だろう。

それをかき消すように、湯船の湯をバシャバシャ叩く。

「……知らない。マリンさんにお世話してもらえばいい」

明日からリンクスが営業再開だというのに、こんな事に頭を占領されている事に無性に腹が立ってきた。

「もう寝ちゃおっ!!」

なつみは気合を入れるように勢いよくザバッと立ち上がった。








なつみが電話に出ない。

あれから何度も電話しているのに。勿論折返しの電話も来るはずも無い。

「まいったなあ……」

手の中の携帯電話の画面を見つめながら、品田は大きなため息をついた。

マズイところを見られてしまった。男性経験の無い彼女には、知り合いのキスシーンはかなり衝撃的な光景だったろう。

あの後、堂島と何処へ行ったのかも気になる。
いや、彼に限ってそんな事は無いとは思うが、品田から見ても堂島はいい男だ。しかも金も地位も自分には無い物を全部持っている。
なつみが、堂島に好意を抱くのもそんなに不自然な事じゃない。

頭の中で、グルグルと妄想が繰り広げられる中、品田はふと気づいた。

そうだ、堂島に電話をすればいいじゃないか。何でこんな簡単な事に気が付かなかったのか。
それ程、今回の件に動揺していたらしい。



「どうした?」

受話口から、堂島の低い声が聞こえて来た。

「あ、堂島君?いきなりごめん……」

「……彼女の事で電話してきたんだろ?」

察しのいい男だ。

「何があったか知らないし、詳しい事は聞いていない。……いや、大体の想像はつくがな。モテモテみたいだな、辰雄」

「茶化さないでよ。そんなんじゃないから」

電話の向こうで笑う堂島が、急に真面目な声になる。

「泣いてたぞ。彼女」

「……え?」

「気付いて無いのか?あの子の気持ちに」

「…………」

「お前が誰と付き合おうと構わないが、曖昧な態度はかえって傷つけるだけだぞ。……それから彼女はちゃんと家まで送り届けた、安心しろ」

じゃあなと言うと、通話は切れた。

「なつみちゃんの……気持ち?」

今の堂島の言い方では、まるで彼女が自分に好意を寄せているみたいではないか……。

「あ、あはは……まさかねぇ……」

乾いた笑いが口からこぼれる。

もし、仮にそうだとしたら……。今回のマリンとの件は衝撃的どころか、かなりショックを受けた事になる。

「……いや、そんな……まさか」

困惑した顔で、病室の真っ白い天井を仰いだ。

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