「はぁ……さて、このまま君の部屋でいいかな?」

するりと腰に手をまわされ、なつみの心音が更に早まる。
品田の厚い胸板に両手を当て、俯きながら自力で立ち上がった。

「も、もう大丈夫だから」

きっと自分の顔は耳まで真っ赤だ。それを悟られなように俯いたまま自室へと向かおうとした時だ。
グッと腕を掴まれた。

「なつみちゃん……」

「え……?」

「帰って来た理由もう一つあるんだ。……その……マリンちゃんの事で……」

“マリン”のなつみに一気に胃の辺りが重くなる。正直あまり聞きたくない内容だった。

「電話も出てくれないし、このまま誤解されてるのも嫌だと思ってさ」

「……誤解?」


急に怒りが湧いて来た。
一体何が誤解なのか。自分が病室に入っていった時はお互い求めあっているようにしか見えなかった。

「あれのどこが誤解?……品田さんノリノリでキスしてたじゃない」

率直な思いを品田にぶつけると、彼はウッと言葉を飲み込む。

「い、いや……俺その……溜まっててさ」

「溜まる……?」

一瞬何の事かわからず固まるが、直ぐに意味を理解し、再び顔が熱くなる。

「な、何言って……」

「あぁ、いや。これ結構真面目な話でさ。生理現象だから仕方無いんだ……人によっては三日でいっぱいになるって言われてるし。……そんな状態で誘われると……その……抗えないっていうか……」

凄く言いにくそうに頭を掻く品田に、疑問に思っていた事を訊いてみる。

「あの時、私が病室に行かなかったら……品田さん、その……最後まで……?」

想定外の質問だったのだろう。品田はえっ?と目を大きくした後、気まずそうに目を逸らした。

「い、いやあ……それは……」

その反応に、なつみの顔は悲しげに曇り無言でその場を立ち去ろうとする。
男の生理現象がどういうものなのか分かったとしても、そう直ぐには割り切れるものではない。

「ま、待って」

グッと掴まれた腕に力が込められる。

「じゃあ要は、品田さんは誰でもいいって事でしょ?」

吐き捨てるように言うと、品田の目が悲しそうに揺れた。その顔に、何も言えなくなる。
早くこの場から離れたくて、掴まれた腕を振りほどこうとするが品田は全く離そうとしない。それどころか、もみ合っているうちに、壁際へと追い込まれてしまった。
逃げ道を品田の太い腕が阻む。なつみは壁と品田の間に挟まれ、身動き取れなくなってしまった。

こんな強引な彼は初めて見た。真剣な顔で見下ろす品田を少し怖いとも感じた。

傷が痛むのか、品田の首に一筋の汗がツッと流れる。

「誰でもいいって訳じゃない。そりゃ、俺だって男だし、誘われたら断れない事もあるし、……仕事柄、好きじゃない女の子とそういう事する機会も多いけど……」

苦しそうに一度ため息をつくと、品田は続けた。

「好きな人とするのとは、全然違うから……俺は……」

そこまで言うと、彼は黙ってしまった。暫く無言だった品田はスッとなつみから身体を離した。

「……いや、なんでもない。ごめん」

そのまま背中を向け、脚を引きずりながら自分の部屋へと帰ってしまった。

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