品田の部屋のドアが閉まると、なつみはヘナヘナとその場に座り込む。心臓は変わらずバクバクと鳴り続いている。

「……なんなの?もう……」

なつみは顔の火照りを治めるように、両手で顔を挟んだまま、暫くそこから動けなかった。







────俺はあの後何を言おうとした?

痛む脚を引きずりながら、ベッドまで移動すると、ゴロリと横になり、天井を仰ぐ。

いいおっさんが若い子に熱くなってしまったと、少し気恥ずかしくなりながら今の自分の言動を後悔した。

言ってどうする。自分は近いうちに名古屋に帰る身だ。「ついて来い」なんてカッコいい事も「迎えに来る」と言える覚悟も、頻繁に会いに来られる金も無い癖に。
かえって、あのまま誤解されたままの方が良かったのではないか?

“曖昧な態度はかえって傷つけるだけだぞ”

堂島の言葉が、今更になって突き刺さるようだった。

大きくついたため息が、熱を帯びているように感じた。少し頭がクラクラする。

傷のせいか、熱が出てきたみたいだ。

さすがに食欲も無く、品田はそのまま寝る事にし、足元にある布団を毛布ごと掴むと頭まですっぽりとかぶり目を閉じた。



暫くすると、「品田さん?」と自分を呼ぶ声が聞こえたが、それに応える余裕はなかった。薄目を開け、声の方を見ると春樹が心配そうに顔を覗き込んで来た。

そして、彼の手が自分の額に当てられると、彼は「うわ」と小さな声をあげ、バタバタと階段を駆け下りて行った。

次に額に触れて来た手は、先程の春樹の手よりだいぶ冷たく感じた。

「勝手に退院なんてするから。今救急車……」

なつみの声が聞こえ、品田は慌ててその袖を引っ張る。

「大丈夫。傷のせいだから、……寝てれば治るよ」

力無くそう言うのが精一杯だった。もう入院はごめんだった。

「わかったわかった。今氷枕持ってくるから、でもこれより酷くなるようだったら救急車だからね?」

彼女はこちらの意図がわかったのか、品田の布団を肩までしっかり被せると、一階へと降りて行った。





熱い……。頭がガンガンする。

そんな事をボンヤリと考えていると、近くに人の気配がした。

頭を持ち上げられ、枕の代わりに冷たいものが頭の下に敷かれる。それは、カラカラと心地よい音を立て、品田の頭が動く度に揺れた。

洗面器の中の水を絞る音を、目を瞑りながら聞いていた。この感覚が何だか懐かしく胸の辺りにじんわりと沁みて来る。
直ぐに冷たいタオルが、額にあてがわれる。

薄っすらと目を開けると、心配そうななつみがこちらを覗き込んでいた。

「食欲は?」

小さく首を振ると彼女は小さく笑う。

「そうだよね……」

いつの間に挟まれたのか、脇の下の体温計がピピピと小さな電子音で終了を知らせる。

「38度5分……思ったより高いな……」

なつみが独り言のように呟く声が聞こえた。

いつもだったら、こんな高熱が出た時は、ひとりあの小さなプレハブの汚い万年布団の上で「もう死ぬかもしれない」と呻いていたものだが……。
弱っている時に、近くに人が居るというのはこんなにも安心出来るものなのか。

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