「品田さん」

だいぶ外も明るくなってきたので、隣で寝息を立てる品田に静かに呼びかける。
本当はもっとこうしていたいのだが、そろそろ起きなければ。

「品田さん、起きて」

「んー……」

眉間に皺を寄せ、顔をしかめる品田はなつみの首元にすり寄るように顔を埋める。
寝息が首にかかりくすぐったい。
そんな仕草に、ぼさぼさの頭を撫でたくなるのをグッと堪える。

「品田さんっ!!」

「ぅんー、あれ、なつみちゃん?」

「なんで私の隣で寝てるのよ?」

その言葉に、一瞬“あれ?”という顔をしたがすぐに照れたように笑うと頭を掻いた。

「いやあ、なつみちゃんそんなとこで寝てて寒そうだなって思って、起こしちゃうのも可哀想だし……」

「それで、隣で寝たと……」

「うん」

品田は毛布を首元までたくしあげ、再び寝ようとするのでなつみは「ダメダメ」と毛布を取り上げた。

「ちゃんとベッドで寝なさい。私そろそろ朝の支度しないと」

そう言った時の品田の表情が、少し残念そうに見えたのは気のせいだろうか。

「あ、そうだ。包帯も替えなきゃね」

言われた品田は、履いていたスウェットに手をかけそれを下ろそうとする。

「わっ……ちょっ、待ってっ!!」

「……え?あ、ごめんごめん」

慌てて背を向けたなつみに、品田は気まずそうに笑う。

「もうっ!!自分でどうぞっ!!」

救急箱を品田に押し付け、なつみは一階へ降りた。



一階に行くと春樹が朝食の準備をしていた。階段を下りて来る姉の顔を見るや、春樹はニヤニヤしながら言った。

「朝からあんまイチャイチャするなよな」

「い……イチャイチャって、そんなんじゃないからっ!!」

顔を真っ赤にしながらムキになるなつみに、春樹は食器をテーブルに並べながら急に真面目な顔になる。

「好きなんだろ?品田さんの事」

「えっ!?」

「結構分かりやすいからなあ、姉ちゃんは」

「そっ……そんなんじゃ……」

否定の言葉を探すが、春樹の見透かしたような顔を見て諦める。

「そんなに分かりやすい……かな?」

「うん、さすがに品田さんも気付いてんじゃないかな」

「嘘っ!?」

そうだとしたらかなり気まずい。今までの自分と品田の言動を懸命に思い返してみる。

「なんかさ、正直甲斐性無さそうだし不安な面もあるけどさ……信用できる大人だとは思う。姉ちゃんがいいなら、俺は反対はしないよ」

「…………」

その時、階段をゆっくりと下りてくる足音がした。

ギクリとしてそちらを見ると、足が痛むのか眉間に皺を寄せる品田が怪我を庇うように下りてきていた。

「おいおい、大丈夫かよ?朝食なら持ってくのに」

春樹がサッと品田に駆け寄るとその大きな身体を支えた。

「だって、ひとりで食うのって味気ないし」

春樹に礼を言いなつみの対面に座る。目の前のなつみが俯いていることに少しだけ眉をハの字に下げた。

「さっきの事、怒ってる?俺がちょっと無神経だったね、ごめんね?」

違う。そんなんじゃない。
自分の気持ちに気が付いているかもしれない品田の顔を、まともに見る事が出来ないだけだ。

赤面顔を見られたくなくて、俯いたままのなつみの顔を品田は顔を傾け覗きこんだ。

「なつみちゃん?」

声と同時に品田の腕がぬっと伸び、頬に触れた。

「……うわっ!!な、なにっ!?」

なつみの動揺ぶりに、品田は直ぐにその手を引っ込める。

「ご、ごめんっ。顔赤かったから、熱でもあるんじゃないかって……。ほ、ほら、昨日ちゃんとベッドで寝なかったし……」

「だ、大丈夫。平気だから……」

「そっか……」

「……うん」

そう言ったきり、気まずそうにお互い目を合わせられずにいる二人を、春樹はニヤニヤしながら眺めていた。

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