「美味い……」


驚いたように目を見開く堂島に、口いっぱいにオムライスを頬張る品田は「でしょ?」と嬉しそうに言った。

堂島はカウンターの中で作業をするなつみを見る。

「危うく神室町から美味い店を無くしてしまうところだったな」

その言葉に、なつみは照れたように笑った。隣でそれを聞いていた品田は、自分が褒められた訳でもないのに、妙に誇らしい気持ちになった。



品田のお別れパーティーをしないかと春樹が提案したのは、二人に食後の珈琲を提供していた時だった。

「えぇ?いいよ、わざわざそんな事しなくても」

そんな事を言っていたが、品田の口元は嬉しそうに綻んでいる。

「いいじゃん。ねえ、姉ちゃん。やろうよ、お別れ会」

「あ、うん……。そうだね」

そう言ってなつみは、どこか浮かない顔で口元だけで笑った。

「お前、無理やり退院したんだって?」

「うん。暇だし、病院食って味薄いしさ」

「お前らしいな」

そんな会話をしていると、品田は思い出したようになつみを見た。

「そうだ、入院費。なつみちゃん払ってくれたんでしょ?いくらだった?」

「ん?私払ってないよ?」

なつみが首を傾げると、品田は困惑したような表情になる。

「え?だって、退院するとき“支払いは必要ない”って……」

数秒顔を見合わせていた二人は、ハッとして堂島を見た。その視線に気付いた堂島は、唇の片方だけを上げニヤリと笑った。






代金を支払おうとした堂島と、それを受け取ろうとしないなつみ。そんなやり取りを何度か繰り返し、とうとう堂島の方が折れた。

「ごちそうさま。また来るよ」


堂島がドアノブに手を掛けながら、振り返って笑う。

「はい。ありがとうございました」

なつみが堂島に頭を下げた。

「よかったら、品田さんのお別れ会にも来てください」

「……ああ」

堂島はなつみの後ろで、カウンターに座ったままヒラヒラとこちらに手を振る品田へチラリと視線を走らせると、ノブに掛けていた手を離した。

「なつみちゃん……」

なつみの視界が遮られる。気付くと堂島がなつみの耳元に顔を近づけていた。

彼の急な行動に驚いて立ち尽くすなつみの耳元で、堂島が小さく囁く。

「あいつ、このまま帰しちゃっていいのか?」

なつみが息を飲むのと同時に、ガタンと背後で大きな音がした。

そのまま動けずにいるなつみから、スッと身体を離した堂島は、「じゃあな」と言うと扉を開け出て行った。


そんな事を言われても、本人が帰ると言っているんだから仕方が無い。

小さく溜め息をつき、クルリと身体を反転させると、倒れた椅子と唖然とした顔で突っ立っている品田の姿が目に入った。

「……なつみちゃん。堂島君に何言われたの?」

おそるおそるといった感じで訊く品田に、「え……」と言葉を詰まらせる。

「べ、別にたいした事じゃないから……」

そう言うとなつみは逃げるように厨房へと入って行った。

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